小説の推敲完全ガイド|第一稿を傑作に変える技術と20のヒント

 小説を書き終えた瞬間は、達成感でいっぱいになりますよね。でも、ここからが本番です。第一稿はあくまで「素材」であって、推敲を経てようやく「作品」になります。

 わたし自身、書き上げた直後は「傑作だ!」と思っていたのに、一週間後に読み返して頭を抱えた経験が何度もあります。腰が痛くなるほど机にかじりついて書いた原稿だからこそ、冷静に磨き上げる時間が必要なのです。

 この記事では、推敲とは何か、校正との違い、具体的なやり方、そして文章の読みやすさを高める20のヒントまで、推敲にまつわるすべてを解説します。コーヒーでも淹れて、楽な気持ちで読んでくださいね。

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推敲とは「思いやりの行為」である

 推敲と聞くと、誤字脱字を直す作業を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。もちろんそれも推敲の一部ですが、本質はもっと深いところにあります。

 推敲とは、自分以外の誰かに物語を楽しんでもらうための行為です。つまり「思いやりの行為」なのです。

 原稿を書いた「過去の自分」に対して、なぜこう書いたのか、もっと伝わる表現はないか、読者がつまずく箇所はないか、とさまざまな角度から問いかけてみる。そして「今の自分」ならこう書く、と最良の文章に置き換えていく。推敲とは「過去の自分への質問と、今の自分にできる最良の置き換え作業」ともいえるでしょう。

 その目的は、ストレスなく読めて、いいたいことが明確に伝わる文章を作ることです。余分な贅肉をそぎ落とすのも推敲ですし、必要な文章を追加するのも推敲です。さらに「この小説をもう一段高みに上げる」という意志を持って臨むことが大切です。お金を払ってでも読みたいか。そんなシビアな視点で作品を見つめ直す勇気が、推敲には求められます。

推敲と校正の違いを押さえよう

 推敲と校正は混同されがちですが、実は別の作業です。整理しておきましょう。

 推敲は、文章の内容・構成・表現をより良くする作業です。テーマが伝わるか、構成に無理はないか、もっと的確な言葉はないか、と物語全体の質を高めていきます。

 校正は、文章の「誤り」を見つけて正す作業です。誤字脱字、表記の不統一、名前の間違いなど、いわば「減点要素をなくす」ための確認作業にあたります。

 たとえば、主人公の名前が「アルフォード」なのに、どこかで「アルフォート」とお菓子の名前に化けていないか。ひらがなで統一していたはずの表現が、途中から漢字になっていないか。作中で何度も登場する重要語句が抜け落ちていないか。

 極論を言えば、ストーリーが抜群に面白くても、表記があいまいで読みづらいという理由だけで読者がページを閉じてしまうことがあります。校正は地味に見えますが、作品の総合点を守る大事な防御線です。

 推敲で「攻めの改善」、校正で「守りの確認」。この両輪を回すことで、原稿の完成度は格段に上がります。

推敲に必要な「3つの人格」

 推敲をうまく進めるために、自分の中に3つの人格を意識してみましょう。スティーブン・キングが『書くことについて』で語ったエッセンスにも通じる考え方です。

 第一の人格:自分大好きマン

 第一稿を書くときに必要な人格です。自分の作品を心の底から愛し、面白いと信じて筆を走らせる。推敲の段階ではこの人格は脇に退いてもらいますが、創作のエンジンとしてなくてはならない存在です。

 第二の人格:批判的な読書家

 第一稿を読み返すとき、辛口の読者になりきります。「ここ、退屈だな」「この展開に説得力がない」「もう読むのをやめようかな」と、容赦なく粗を探す人格です。この冷徹な目こそが推敲の核になります。

 第三の人格:作品ファンの編集員

 批判的な読書家が見つけた問題点を、作品への愛情を持って修正する人格です。「ここは惜しいけど、こう直せばもっと良くなる」と、建設的に手を入れていく。批判するだけでなく、より良い解決策を提示できるバランス感覚が求められます。

 この三者のバランスが崩れると、推敲はうまくいきません。自分大好きマンが強すぎれば粗に気づけず、批判的な読書家ばかりが出てくれば原稿を削りすぎてしまう。三者を交互に呼び出しながら、原稿を磨いていきましょう。

第一稿から完成稿までのプロセス

 推敲は一度で終わる作業ではありません。段階を踏んで進めていくのが効果的です。

 第一稿(ゼロ稿)

 とにかく最後まで書き切ることが目標です。「自分大好きマン」の人格で、勢いを大切にして書きましょう。途中で推敲を始めてしまうと、完結できなくなるリスクがあります。粗があっても気にしない。まずは物語を形にすることが最優先です。

 寝かせる期間

 書き終えたら、一定期間のあいだ原稿から離れましょう。スティーブン・キングは最低6週間の冷却期間を推奨しています。長編で6週間が理想ですが、短編なら1週間でも効果はあります。

 この寝かせる時間に別の作品を書いたり、読書をしたり、まったく関係のない活動をしたりすることで、原稿の内容を意図的に忘れます。完全に忘れてから読み返すと、まるで他人の作品を読んでいるかのように冷静な目で見ることができるのです。

 第二稿(大幅改稿)

 寝かせた原稿を読み返し、「批判的な読書家」の目で問題点を洗い出します。ここでは大きな構造の問題を優先的に修正しましょう。

 不要なシーンの削除、伏線の追加、キャラクターの整合性チェック、テーマの再確認など。第一稿では気づかなかったテーマが浮かび上がってくることもあります。それを意識的に強化するのが第二稿の大きな役割です。

 改稿を重ねるたびに、気になる箇所が減っていき、スムーズに読み通せるようになります。何度も読み返すうちに、どうしても捨てられなかった描写への未練が消え、すっきりと削れるようになる。その過程こそ推敲の醍醐味です。

 第三稿以降(仕上げ・校正)

 大きな構造の問題が解決したら、文章レベルの磨き上げに入ります。一文一文のリズム、語彙の選択、読点の位置。そして最後に校正作業で誤字脱字や表記の統一をチェックします。「作品ファンの編集員」の出番です。

推敲の具体的な5つの方法

 推敲の理念がわかったところで、実践方法をご紹介します。

 方法1:小説を寝かせる

 前章でも触れましたが、改めて強調します。書き終えたらすぐに推敲を始めず、そのまま放置しましょう。これを「小説を寝かせる」といいます。最初は1日程度、修正を加えたらまた1週間寝かせる。この繰り返しで、どんどん客観的な視点が手に入ります。散歩に出かけたり、旅をしてしまっても構いません。原稿のことをすっかり忘れてしまうのが理想です。

 方法2:見た目を変えて読む

 同じ画面で何度読み返しても、脳が「見慣れた文章」として処理してしまい、粗を見逃しがちです。横書きを縦書きに変える、フォントを変える、紙に印刷する、スマホに転送して読む。見た目を変えるだけで、まるで違う作品のように感じられ、問題点が浮かび上がります。

 読むたびに「チェックの目的」を一つに絞るのもコツです。一巡目はリズム感だけをチェック、二巡目は誤字脱字に集中、三巡目はキャラクターの一貫性、というように分けるとストレスなく精度が上がります。

 方法3:声に出して読む

 音読は最強の推敲ツールです。黙読では気づかなかった文章のもたつき、リズムの悪さ、不自然な言い回しが、声に出した瞬間に浮かび上がります。長すぎる文、接続詞の多用、受動態の回りくどさも、音読でキャッチできます。

 方法4:人の手に渡す

 自分の中だけで推敲を繰り返すと、同じ思考回路を辿ってしまい、盲点が生まれます。信頼できる誰か、編集者でも友人でも家族でも、第三者に読んでもらいましょう。人に渡した瞬間、「あの部分は大丈夫だったかな」「いいたいことは伝わっているかな」とリアルな不安が湧いてきます。それ自体が冷静さを取り戻すきっかけになるのです。

 方法5:チェックリストを作る

 毎回同じミスを繰り返すなら、自分専用のチェックリストを作りましょう。「登場人物の名前の統一」「ひらがなと漢字の表記統一」「伏線の回収漏れ」など、原稿とは別に書き出しておくと、漏れなく確認できます。面倒に感じるかもしれませんが、この一手間が作品の完成度を大きく左右します。

文章の読みやすさを高める20のヒント

 推敲の際にとくに意識したい、読みやすい文章を書くためのヒントを20個にまとめました。小説だけでなく、あらゆる文章に応用できるテクニックです。

 ヒント1:主語と述語は近くに置く
 日本語は、主語と述語の距離が近いほど読みやすくなります。修飾語と被修飾語も同様です。「私は昨日友人と一緒に近所の公園まで歩いた」より「昨日、私は友人と近所の公園まで歩いた」のほうがすっきりします。

 ヒント2:漢字は基本、開く
 不必要な漢字は、ひらがなに開きましょう。「更に→さらに」「殆ど→ほとんど」「下さい→ください」「出来る→できる」「何時か→いつか」「丁度→ちょうど」。漢字が多すぎると紙面が黒くなり、読者に圧迫感を与えます。

 ヒント3:一文は短くする
 長い文章は読者の集中力を削ぎます。一文に情報を詰め込みすぎず、1つか2つの独立した節にまとめましょう。迷ったら句点で区切ってください。

 ヒント4:難しい漢字にルビを振る
 Web小説なら括弧書きで読みを添えるだけでも効果があります。読者がつまずかずに読み進められることが大切です。

 ヒント5:改行と余白を活用する
 文章を短い段落に区切り、適度な余白を設けましょう。テキストが画面を埋め尽くすと、それだけで読者は圧倒されます。1行の字数を40字程度に制限すると、どの投稿サイトでも読みやすくなります。

 ヒント6:明らかなことは省略する
 同じ主語を何度も繰り返す必要はありません。「私は私の好きな色をした私の靴を私の靴箱に入れた」は「好きな色の靴を靴箱に入れた」で十分伝わります。

 ヒント7:ひらがなの連続を避ける
 ひらがなが長く続くと、どこで区切るか分からず読みにくくなります。読点で区切るか、片方を漢字に置き換えましょう。

 ヒント8:代名詞を減らす
 「彼ら」「彼女」の多用は読者を迷わせます。具体的な名前や描写に置き換えることで、文章の輪郭がはっきりします。

 ヒント9:い抜き・ら抜き言葉はキャラで使い分ける
 口語は会話文のリアリティに貢献しますが、地の文で多用するとだらしない印象になります。キャラクターの口調として意図的に使うぶんには効果的です。

 ヒント10:読点は強調したいときに打つ
 読点が多すぎると文章がブツ切りになり、少なすぎると息苦しくなります。意味の区切りや強調したいポイントで打つのが基本です。

 ヒント11:助詞「の」の連続を避ける
 「私の友人の家の庭の花」のように「の」が連続すると、読みづらくなります。「私の友人が住む家の庭に咲く花」のように言い換えましょう。

 ヒント12:列挙するときは品詞を揃える
 名詞なら名詞、動詞なら動詞で揃えると、リストが構造的に見えて理解しやすくなります。

 ヒント13:受け身表現を避ける
 「ボールが彼によって投げられた」より「彼がボールを投げた」のほうが力強く、読みやすいです。能動態を基本にしましょう。

 ヒント14:接続詞を多用しない
 「しかし」「だが」「ところで」が連続すると、読者は文脈を見失います。接続詞がなくても文と文がつながるなら、思い切って削りましょう。

 ヒント15:ト書き「〜と言った」は省略できる
 台詞のあとに「〜と言った」と書かなくても、口調や文脈で話者はわかります。誰が喋っているかは、台詞の中で相手の名前を呼ばせるなどの工夫で示せます。

 ヒント16:接続助詞「が」を削る
 「AはBをしたが、CはDだった」は「AはBをした。CはDだった」と分けられることが多いです。「が」を取り去っても文意が通るか確認してみましょう。

 ヒント17:設定の説明はリピートする
 読者は設定を忘れます。要所で同じ描写や説明を繰り返し、記憶を補強しましょう。くどくならない程度に、さりげなく。

 ヒント18:声に出して読んでみる
 前章でも述べましたが、20のヒントの中でも最重要です。不自然な表現、長すぎる文、リズムの悪さ、すべて音読でキャッチできます。

 ヒント19:できる限り断言する
 「〜だと思います」「〜かもしれません」という曖昧な表現は、地の文では避けましょう。断言することで文章に力が生まれます。また「ということ」「というもの」も文章をもたつかせるので、削れないか検討しましょう。

 ヒント20:自分の文章を信じる
 最後は心構えです。自分の文章は読みやすいと信じることで、もっと上手くなりたいと自然に学べます。上手な人の良いところを取り入れようと思えるのも、自信があってこそ。おめでたくいきましょう。

推敲チェックリスト

 最後に、推敲の際に確認したいポイントをチェックリストにまとめました。印刷して原稿の横に置いておくと便利です。

 構成チェック
 テーマが一貫して伝わっているか。不要なシーンや冗長な描写はないか。伏線が回収されているか。冒頭で読者を引き込めているか。結末に納得感があるか。

 キャラクターチェック
 登場人物の言動に一貫性があるか。名前の表記が統一されているか。台詞がキャラクターの個性を反映しているか。

 文章チェック
 一文が長すぎないか。受動態が多用されていないか。同じ語尾が3回以上連続していないか。漢字とひらがなのバランスは適切か。接続詞の重複はないか。

 校正チェック
 誤字脱字はないか。固有名詞の表記にブレはないか。ひらがなと漢字の表記が統一されているか。括弧の対応は正しいか。数字の表記は統一されているか。

まとめ:推敲は小説を小説にする工程

 推敲とは、読者への思いやりであり、過去の自分との対話であり、作品を高みに押し上げる勇気ある行為です。

 3つの人格を使い分けながら、寝かせて、見た目を変えて、声に出して、人に渡して。何度も何度も読み返すことで、第一稿は少しずつ磨かれていきます。

 20のヒントはすべてを一度に実践する必要はありません。まずは「一文を短くする」「声に出して読む」の2つだけでも、文章は見違えるほど良くなるはずです。

 小説は推敲を通じてようやく小説になりえるもの。さあ、コーヒーをもう一杯淹れて、あなたの原稿と向き合ってみましょう。

ここまで読んで頂きありがとうございました。
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