サラダマックの失敗に学ぶ|読者の声を真に受けてはいけない理由

2022年2月2日

「読者の声に耳を傾けよう」——この言葉は創作の世界でよく聞きます。しかし 読者の声を"そのまま"受け取ると大失敗する ことがあるのをご存じでしょうか。

マクドナルドの「サラダマック」の大失敗は、その最も有名な事例です。この記事ではこのマーケティング事例から、Web小説における読者の「本音」を読み解く技術を考えてみましょう。

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サラダマックの大失敗

2006年頃、マクドナルドはお客様アンケートの声をもとに「サラダマック」を開発しました。

「ヘルシーなサラダが食べたい」「ダイエット中だからマクドナルドに行かない」「栄養が偏るのが嫌」——こうした声に応えた商品だったのです。

結果はどうだったか。 サラダマックはほとんど売れず、すぐに販売終了 となりました。

一方、マクドナルドが発売した「クォーターパウンダー」は大ヒットしています。お客様がマクドナルドに本当に求めていたのは、 「脂っこくて味が濃い、不健康だけど思わずかぶりつきたくなるハンバーガー」 だったわけです。

アンケートの回答は嘘ではありません。しかしそれは本音ではなかった。お客様は「健康を気にしている自分でありたい」という願望から、建前の回答をしていたのでしょう。

「社会的望ましさバイアス」の正体

人間は無意識に 「自分をよく見せたい」 というバイアスを持っています。アンケートに「ジャンクフードが好きです」と書くより、「ヘルシーなものを食べたい」と書く方が、回答者自身の自己イメージが良くなるからです。

このバイアスを心理学では 「社会的望ましさバイアス」 と呼びます。人はアンケートで本音ではなく「こうあるべき自分」を語ってしまうのでしょう。

このバイアスは飲食業界だけの話ではありません。実は創作の世界でもまったく同じことが起きています。

読者が言うこと(建前)読者がやること(本音)
テンプレ的な展開は飽きたランキング上位はテンプレ作品で埋まっている
長文タイトルは読む気がしない長文タイトルの作品がクリックされている
文学的な作品が読みたい実際に読むのはエンタメ作品
100話以上は読み始める気にならない人気作の多くは100話超

この矛盾は「キレイなウソ」で説明がつきます。 読者が「言っていること」と「実際にクリックしていること」は、しばしば異なる のでしょう。

Web小説で見かける「建前の声」を翻訳する

読者の声でよく聞くフレーズを、「建前」と「本音」の両面から翻訳してみましょう。

「テンプレ展開はもう飽きた」——この声を真に受けてテンプレから外れた作品を書くと、読者がつかない可能性があります。テンプレに飽きたと言う読者の本音は、 「同じテンプレでも新鮮に感じさせてほしい」 かもしれません。テンプレの骨格は維持しつつ、ディテールで驚かせるのが正解でしょう。

「文学的な作品が読みたい」——この声で純文学的な作品を書いても、ランキングには載りにくいでしょう。「文学的な作品が読みたい」と言う自分が誇らしいだけで、実際に読みたいのは 「文学的な雰囲気を持ったエンタメ作品」 だったりします。

「100話以上あると読み始める気にならない」——しかし人気作品の多くは100話をゆうに超えています。読者の本音は「最初の3話で引き込まれれば500話でも読む」かもしれません。

「最近の作品はどれも同じに見える」——一見するとオリジナリティを求める声に聞こえますが、本音は「いつもの安心感に、ちょっとだけ新鮮さがほしい」ではないでしょうか。

これを「ファミリアー・サプライズ」と呼ぶ考え方があります。人は慣れ親しんだものに安心を感じつつ、ほんの少しの驚きを求める生き物です。このバランスを意識すると、「テンプレだけど新しい」という読者の隠れた欲求に応えられます。

大切なのは、 読者の声を聞かないことではなく、声の裏にある「行動」を観察する ことでしょう。

あなたの物語の「サラダマック」を見つける

自分の作品にも「サラダマック現象」が起きていないか、チェックしてみましょう。以下の質問に「はい」が一つでもあれば、建前に振り回されている可能性があります。

チェック項目建前の例本音の可能性
感想で「文章が上手」と言われた「文章力を褒めておけば無難」ストーリー自体の感想がない=展開が弱い
「もっとシリアスが読みたい」と言われた「重厚な物語を求めている」今の作品のギャグや軽さが好きだから読んでいる
「毎日更新してほしい」と言われた「更新頻度を上げてほしい」1話の密度が薄くて※物足りない
「キャラが多すぎる」と言われた「キャラを減らせ」キャラの区別がつかない=描き分けが弱い

建前をそのまま実行すると、作品の魅力が損なわれるリスクがあります。 「読者がそれを言う背景」 を想像し、行動データと照らし合わせる習慣をつけてみてください。感想コメントではなく、PVの推移やブックマークの增減こそが、読者の本音を映す鏡なのです。

「建前→本音」翻訳の練習問題

この記事で学んだ内容を実践するために、もういくつか建前と本音の翻訳例を考えてみましょう。

例1:「展開が予定調和でつまらない」。この声をそのまま受け取ると、意外性のある展開を追加したくなります。しかし本音は「予定調和の展開自体は安心感があって好きだが、その中に小さな驚きがほしい」かもしれません。キャラクターの小さな行動や台詞で意外性を演出するほうが、プロットごと変えるより効果的です。

例2:「主人公に感情移入できない」。「もっと魅力的な主人公を書け」と解釈しがちですが、本音は「主人公の感情が見えない」という技術的な問題かもしれません。キャラの魅力を上げるより、内面描写を追加するほうが解決に近い可能性があります。

例3:「バトルシーンが単調だ」。「新しい技を增やせ」と受け取りたくなりますが、本音は「戦闘の前後にキャラの感情が動く場面がほしい」のかもしれません。技のバリエーションよりも、戦闘の「意味」を深くするほうが読者の満足度は上がります。

建前を本音に翻訳する習慣がつくと、「読者の声」という原石から 「読者の欲求」という宝石 を掘り出せるようになります。サラダマックを作らないための鍵は、この翻訳の精度にかかっているのです。

もう一つ重要な視点を加えます。サラダマック現象は 作者自身にも起こりうる ということです。「楽なジャンルで書きたい」という自分の声は建前かもしれません。本音は「書きたいテーマがたまたま今のトレンドと合わないばかりで、モチベーションが上がらない」という別の問題かもしれない。読者の声だけでなく、自分の内なる声にも「建前と本音のフィルター」をかける習慣をつけてみてください。

本音を見抜くための3つの方法

では、建前の裏にある本音をどうやって見つければいいのか。具体的な方法を紹介しましょう。

方法1:「言葉」ではなく「数字」を見る。ランキングの動向、ブックマーク数の推移、更新時のPV変動。言葉よりも数字が本音を語ります。「テンプレは嫌だ」と言う読者がどんな作品をブックマークしているか——その行動データこそ本音の宝庫でしょう。

方法2:「感想」ではなく「離脱点」を見る。感想コメントは書きたい人だけが書くため、サンプルが偏ります。一方、PVの離脱点(どの話数でアクセスが急減するか)は全読者の行動を反映しています。「どこで読むのをやめたか」は「何が合わなかったか」を雄弁に語るのです。

方法3:建前の「反対」を仮説にしてみる。「テンプレが嫌」と言われたら「テンプレの安心感は欲しいが驚きも欲しい」を仮説に立ててみる。 建前と本音のギャップの中に、ヒット作のヒントがある のです。

まとめ

サラダマックの失敗から学べる最大の教訓は、 人間は自分の本音を正確に言語化できない ということでしょう。

作者である私たちも「高尚な物語を書きたい」という建前を持ちがちです。しかし本当に書きたいものは何か。読者の本音を探る前に、自分の本音と向き合ってみることも大切かもしれません。

読者は私たちが思うより疲れていて、仕事帰りに読む物語には「クォーターパウンダー的な満足感」を求めている可能性があります。その本音に手を差し伸べる作品を書いたとき、読者は黙ってブックマークを押してくれるのです。

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