【映像×創作】『最高の人生の見つけ方』から学ぶ「押し付けがましい優しさを愛される装置に変える方法」

2019年11月5日

自分を大切にする喜びを知った彼女たちの輝きが、まわりの人たちの人生も変えていく――

家庭のために生きてきた幸枝と、会社のために生きてきたマ子。全く違う世界に暮らしてきた2人が偶然に出会い、自分たちの唯一の共通点は余命宣告を受けたことだと知る。主婦業と仕事以外に何もやりたいことのない人生の虚しさに気づいた幸枝とマ子は、たまたま手にした12歳の少女の「死ぬまでにやりたいことリスト」を実行するという無謀な旅に出る。“スカイダイビングをする”“ももクロのライブに行く”“好きな人に告白する”──今までの自分なら絶対にやらないことに、自ら殻を破って飛び込む2人。初めて知った生きる喜びに輝く2人は、家族や周囲のものたち、さらには旅先で出会った人々も巻き込み、彼らの人生さえも変えていく──。

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2019年公開の日本版『最高の人生の見つけ方』。2007年のハリウッド版『The Bucket List』を原作に、吉永小百合と天海祐希のダブル主演で描かれたこの作品は、余命宣告を受けた二人の女性がバケットリストを実行する物語です。笑いと涙のバランスが見事で、劇場を出たあともしばらく余韻が消えませんでした。

しかし、創作者としてこの映画から学びたいのは、「押し付けがましい優しさ」というキャラクター属性をどう描けば嫌われないかという問題です。純粋に他人を気遣う人物は、下手に描くと「鬱陶しい」「お節介」と嫌悪感を持たれますよね。本作はなぜそれを回避できたのか。3つの仮説を立てて考えてみました。

仮説1:「死」という免罪符が優しさの暴力性を中和する

幸枝の押し付けがましい優しさは、余命宣告を受けてから加速します。ここがポイントです。死が近い人間の優しさは、長生きする人間の優しさとは質が違うものとして受け取られます。なぜなら、その優しさに「見返り」がないからです。

通常、やたらと親切な人に対して私たちが警戒するのは、「何か裏があるのでは?」という疑念があるからです。しかし余命が限られている人物は、その親切から得られるリターンを回収する時間がない。無償であることが担保されているから、観客は安心してその優しさを受け入れられるのです。

これは『余命10年』(2022年)でも使われた手法ですし、さらに遡れば『ハリー・ポッター』シリーズのダンブルドアも、死が予定されているからこそ「すべてを愛のためにやった」と明かされたとき、観客はそれを受容できました。死を背景にした優しさには、自動的に純度が付与される構造があるのです。

ただし、これだけでは「死ぬから優しくて当たり前」という消費のされ方をしてしまいます。本作がそこを超えているのは、幸枝の優しさが「死を前にして変わった」のではなく、「もともとそういう人だった」と描いている点です。家族に尽くしてきた母親という設定が、余命宣告の前から彼女が他者のために生きてきたことを証明しています。つまり、死は彼女の性格を変えたのではなく、解放しただけだったのです。

仮説2:「バケットリスト」という装置が優しさに方向性を与える

12歳の少女が書いた「死ぬまでにやりたいことリスト」を二人の大人が実行していく——この設定は物語構造として非常に優れていると感じます。

なぜなら、バケットリストは優しさに「方向」を与えるからです。優しい人物が「何をすべきか」を具体的に示す指針がないと、その優しさはあらゆる方向に拡散して制御不能になります。しかし「リストの項目を順番にこなす」というルールがあれば、物語は自然とステージ制の構成になり、各項目がミニエピソードとして独立した見せ場を作れるのです。

スカイダイビング、エジプト観光、ももクロのライブ、好きな人への告白——それぞれが小さな起承転結を持つエピソードであり、同時にキャラクターの変化を段階的に描く装置でもあります。115分という尺の中に怒涛の展開を詰め込めたのは、このリスト構造のおかげです。

同様の構造は『千と千尋の神隠し』にも見られます。宮崎駿監督は、千尋に「名前を取り戻す」「両親を救う」「ハクを助ける」という複数のタスクを順次与えることで、物語をステージ制に構成しています。バケットリストもタスクリストも、本質的には「やるべきことリスト」であり、観客に「次は何が起きるのか」という期待を持続させる推進力になります。

仮説3:「私、死なないので」が物語のテーゼを反転させる

私が最も感動したのが、亡くなったと思っていた12歳の少女と再会するシーンです。幸枝がリストの送り主に「ありがとう」と言い、少女が涙ながらに「ありがとう」と返して物語が綺麗に閉じるのかと思いきや、少女は「私、死なないので」とリストの受け取りを拒否します。

この一言は、物語のテーゼ——「死ぬまでにやりたいこと」——を根底から反転させます。リストを書いたのは死を覚悟した少女ですが、彼女は死なない。つまり、このリストは「死ぬからこそやるべきこと」ではなく、「生きているならいつでもやれること」だったのです。

この反転は、オー・ヘンリーの短編に通じる「最後の一撃」の技法です。『最後の一葉』では、枯れた葉が実は画家が描いたものだったという反転が物語全体の意味を変える。同様に、「私、死なないので」の一言は、それまでの115分間の「死を前にした冒険」を、「生きることの祝福」に変えてしまうのです。

さらに注目すべきは、少女が幸枝の物語を完結させることを拒否したという点です。幸枝の死後も、リストに書かれた願いを引き継ぐ人がいて、その人たちが願いを叶えていく。思いのバトンは個人の死で途切れない。この構造が、本作を「余命もの」の定型から一段引き上げていると感じます。

あなたの物語に活かすなら

『最高の人生の見つけ方』から、3つの技法を抽出できます。

1. 「無償性が担保される設定」で優しい人物を守る

押し付けがましい優しさを持つキャラクターを描くなら、その優しさに見返りがないことを構造的に保証する設定を用意してください。余命宣告はその最強の装置ですが、他にも「明日この街を出ていく旅人」「二度と会わない約束の相手」など、見返り回収の不可能性を設定に組み込めば同様の効果が得られます。

2. リスト構造で物語にステージ感を出す

やるべきことリスト、達成条件、クエスト——何でもいいのですが、「次にやること」が明確な物語は推進力を失いません。特に、リストの各項目が単なるイベントではなくキャラクターの成長と連動していると、構造と感情が同時に進みます。

リスト項目の設計効果本作での例
序盤:ハードル低め物語への乗りやすさスカイダイビング
中盤:感情に関わるキャラクターの深掘り好きな人に告白する
終盤:不可能に近いクライマックスの高揚宇宙旅行

3. 最後の一言でテーゼを反転させる

物語の最後に、それまでの前提を覆す一言を入れてみる。ただし反転が成功するためには、反転前の物語が十分に成立している必要があります。「死ぬまでにやりたいこと」が美しい物語として完成しているからこそ、「死なないので」の反転が衝撃になるのです。

まとめ

『最高の人生の見つけ方』は、死という免罪符で優しさの暴力性を中和し、バケットリストで物語にステージ構造を与え、「私、死なないので」で全体のテーゼを反転させた作品でした。勉強になりました。

「押し付けがましい優しさ」を持つキャラクターは、書き手にとって諸刃の剣です。しかし、その優しさが無償であることを設定で担保し、行動に方向性を持たせ、最後に読者の予想を裏切る一言を用意すれば、読者はそのキャラクターを愛してくれるはずです。

ここまで読んで頂きありがとうございました。
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