BookBaseの現在地|出版スタートアップが切り拓く小説の未来
2019年、クラウドファンディングから始まった小さな出版スタートアップがあります。BookBase。「最高の物語が生まれ、出会える場所」をつくるというビジョンを掲げて走り出したこの会社が、2026年現在、ライトノベル業界に確かな存在感を示しています。
わたし自身、BookBaseのクラウドファンディング時代からウォッチしてきた人間です。当時は正直、成功するかどうか半信半疑でした。同時期に始まったTEAPOTというプロジェクトは2025年にサービスを終了しましたし、大手のLINEノベルですら1年で撤退した厳しい市場です。
それでもBookBaseは生き残り、成長を続けています。この記事では、創作者の目線から「なぜBookBaseはここまでこれたのか」「今どこにいるのか」「これからどこへ向かうのか」を考えてみます。
BookBaseとは何か
BookBaseは2019年9月に設立された、大阪発の出版スタートアップです。代表の近藤雅斗氏(通称オタクペンギン社長)がクラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」で資金を集め、2020年8月に出版プラットフォームサービスを開始しました。目標金額の300%、427万円を獲得したクラウドファンディングは、小説家界隈で大きな注目を集めました。
コンセプトは「電子書籍を主体とする次世代出版社」。当初はCtoC型の小説(電子書籍)販売プラットフォームとして始まりましたが、「作家さんだけで商品として完璧に作りきることは難しい」という現実に直面し、方針を転換。2021年には編集者の創作サポートが受けられる有料オンラインコミュニティ「BB小説家コミュニティ」を設立しました。
壁にぶつかるたびに「どうやって切り抜けるか」を考え、試行錯誤を繰り返すなかで、BookBaseは既存の出版システムの良い部分を取り込みながら進化してきました。現在は自社レーベル「ダンガン文庫」を中心に、コンテストで作品を発掘し、自社編集部で編集・校正・パッケージングを行い、自社プラットフォームと25ヶ所の電子書籍ストアで販売するという一気通貫モデルを確立しています。
なぜBookBaseは生き残れたのか
同時期に立ち上がったWeb小説関連の新サービスが次々と消えていくなかで、BookBaseが生き残れた理由を3つの観点から考えてみます。
理由1:代表の情熱が本物だった
クラウドファンディングの段階では、BookBaseの将来を信じた人は少数でした。批判的な声も多く、「そんな夢みたいなことができるわけがない」という意見もネット上に散見されました。
しかし近藤社長は活動を止めませんでした。ホームページの制作、出版事業、下克上コンテストのような斬新な企画、YouTube配信やXのスペースでの発信。フットワーク軽くさまざまな施策を試し続けました。
とくに「BB小説家コミュニティ」の運営が転機になりました。毎月平均20〜30作もの原稿を読み、一つひとつにフィードバックを返す。ジャンルやクオリティを選り好みせず、作家のモチベーションを上げながら改善点を提示する。この姿勢が累計700名以上の参加者を集め、創作界隈で最大級のコミュニティへと成長する原動力になりました。榊一郎先生をはじめとするプロの小説家の方々の協力も取り付け、講座など創作者の役に立つ企画を継続して実施しています。
理由2:ローコスト経営で持久戦に持ち込んだ
小説プラットフォームのようなベンチャーが中身を充実させるには時間がかかります。その間、潰れずに維持できるかが最大のポイントです。
BookBaseは初期からオフィスを持たないローコスト経営を徹底しました。BBコミュニティの参加人数が増えても、大きな投資に走らず、中身の充実に注力しています。これがランチェスター戦略でいう「弱者の戦略」そのものです。
ランチェスター戦略における弱者の戦略とは、大企業と同じ土俵で戦わないことです。具体的には、新しい発想で局地戦を仕掛ける、顧客との関係づくりを重視する接近戦、強みに特化する一点集中、一騎打ちの場で戦う、敵戦力を分断する陽動戦の5つがあります。
BookBaseは電子書籍の売り切りモデルという、一見地味な事業から始めることで、大手との直接対決を避けました。Amazonも最初は本屋さんから始めましたよね。本は価格が下がらないから在庫を持っても資産が目減りしない。まずは利益を出しやすい領域で足場を固める。BookBaseも同じ発想で堅実にスタートを切ったのだと考えています。
そして中身の充実が実を結び、原作力をつけたBookBaseは他企業とのコラボレーションも実現させました。見た目の派手さではなく作品の力で勝負する。お金をかけなかったからこそ得られた信頼とポジションがあるのです。
理由3:2人で始めた
BookBaseはオタクペンギン社長とサマンサ編集長の2人で始まりました。この「2人」が重要です。
ムーブメントの研究では、最初の1人がどんなに頑張っても孤独な主張にすぎませんが、2人目が続くことで「1人のバカがリーダーに変わる」といわれます。そして2→10、10→1000の拡大は容易になる。同じ夢を追える仲間が最初からいたことが、長期戦を可能にしたのです。
BookBaseの現在地(2026年)
2023年に株式会社マイナビから3,500万円のシード調達を完了したBookBaseは、さらに成長のアクセルを踏みました。
PreAラウンドで約3億円の資金調達
2024年にはPreAラウンドで約3億円の大型調達を完了。ユナイテッド株式会社をはじめとする投資家から支援を受け、大阪拠点を開設しました。「国内唯一の出版社スタートアップ」として、業界における独自のポジションを確立しています。BB小説家コミュニティで継続してお金を払ってくれるファンがいたことも、投資家から資金調達をできた大きな要因だったでしょう。
超挑戦型ライトノベルレーベル「ダンガン文庫」
2024年1月に刊行がスタートしたダンガン文庫は、BookBaseの中核事業です。アニメ化作家を含む15名のプロ作家と作品づくりを行い、自社プラットフォームと25ヶ所の電子書籍ストアで販売しています。
ダンガン文庫のユニークな点は、編集者に「独自の判断で新シリーズを立ち上げられる権限」を付与していること。従来の出版社では編集会議を通さなければ企画を立ち上げられませんが、ダンガン文庫では編集者の力量に応じて独立した判断が可能です。常に新しい可能性を生み出し続けるための、尖ったクリエイティブ体制といえます。
コミカライズ事業への展開
ライトノベルを原作としたコミカライズ(漫画化)も始まっています。注目すべきは、業界相場の倍以上の原稿料を漫画家に提示していること。クリエイターへの還元を重視する姿勢が、BookBaseのブランドを支えています。
編集者育成への投資
年齢不問・キャリア不問で編集者を募集するなど、従来の出版業界の慣習にとらわれない人材戦略を展開しています。BB小説家コミュニティで培った「作家と編集者が共に成長する」文化が、組織全体に根づいています。
TEAPOTの教訓——プラットフォームは永遠ではない
BookBaseの話をする上で、避けて通れない存在があります。TEAPOTです。
TEAPOTは2019年にBookBaseとほぼ同時期にクラウドファンディングで立ち上がった、紙の本の出版プラットフォームでした。「読者300人の支援で書籍化」という斬新なモデルと、プロレベルの装丁が特徴で、わたし自身も熱い応援記事を書きました。
しかしTEAPOTは2025年5月17日にサービスを終了しました。
同時期に始まったLINEノベルも1年で撤退しています。つまり「電子領域を含めてライトノベルを新しい形にアップデートする」という志で新規参入し、今も活動を続けているサービスは、BookBaseだけなのです。
TEAPOTから学べる教訓は、プラットフォームは永遠ではないということです。どんなに素晴らしいコンセプトでも、持続可能なビジネスモデルとコミュニティなしには続きません。創作者としてわたしたちができるのは、特定のプラットフォームに依存しすぎず、自分の作品と読者とのつながりを複数の場所で築いておくこと。それが自分の創作活動を守る最善の方法です。
創作者にとってのBookBaseの意味
BookBaseの存在が創作者にとって意味するものは、「新しい選択肢がある」ということです。
従来の出版ルートでは、小説投稿サイトでランキング上位を目指し、出版社の目に留まることが書籍化への王道でした。しかしBookBaseは、コンテストで発掘した作品を自社編集部で磨き上げ、電子書籍として出版するという別の道を用意しています。
とくに「下克上コンテスト」のように、他社で落選した作品だけを対象にした企画は、既存の選考プロセスではすくい上げられなかった才能に光を当てる試みです。出版業界の「選ぶ側が権力を持つ」構造に、小さいながらも風穴を開けようとしています。
かつてTEAPOTの記事で書いた「全員の夢が叶う世界のほうが良くない?」という問いかけ。それを実際のビジネスとして形にしようとしているのがBookBaseです。もちろん「全員が書籍化できる」というのは夢物語かもしれません。しかし「面白い物語を書けば、従来のルートとは別の道で読者に届けられる」という選択肢が存在すること自体が、創作者にとっての希望になります。
もちろん、BookBaseに投稿すれば必ず成功するわけではありません。どのプラットフォームを選ぶにしても、面白い物語を書く力と、地道に発信する努力は必要です。ただ、選択肢が増えること自体は、創作者のキャリアにとって間違いなくプラスです。
まとめ:出版の未来を切り拓く挑戦
クラウドファンディングから始まった小さなスタートアップが、6年以上にわたって走り続けています。PreA約3億円の調達、ダンガン文庫の刊行、コミカライズ事業の開始。BookBaseの挑戦は、まさにこれからが本番です。
数多くのプラットフォームが生まれては消えていく業界で、BookBaseが生き残れている理由は明快です。代表の情熱、ローコスト経営による持久力、そして作家コミュニティという確かな基盤。
わたしは2019年からBookBaseをウォッチし、2020年に「BookBaseは成功する」と書きました。2023年にも「勝ち馬に乗るなら今だ」と書きました。2026年の今、その予測は外れていないようです。
出版業界をアップデートするという壮大な夢が、どこまで実現するのか。創作者の一人として、引き続き見守っていきたいと思います。






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