オッカムの剃刀で小説を削る|「無駄を削ぎ落とす」推敲術を例文付きで解説

2022年10月7日

「書きたいことは全部書いた。でもなんだか読みにくい」——その原因は、文章に「ぜい肉」がついているからかもしれません。

14世紀イギリスの哲学者ウィリアム・オブ・オッカムが唱えた原則「オッカムの剃刀」は、一言で言えば「必要以上に多くのものを仮定するな」という考え方です。近年では「最もシンプルな説明が大体正しい」という意味で広く知られています。

この原則を小説の推敲に当てはめると、こうなります——不要なぜい肉を削り、最もシンプルにすることで、伝えたいことだけが残る。この記事では、オッカムの剃刀を使った推敲術を具体例とともに解説します。

なぜ小説にぜい肉はいらないのか

まず、一つの例を見てみましょう。

❌「息子はあまり眠れなかったようで、今日は朝から眠そうだ。」

この文で一番伝えたいことは何でしょうか?「息子が眠そうだ」ということですよね。そこで「あまり眠れなかったようで、今日は朝から」の部分を削ります。

⭕「息子は、眠そうだ。」

要はこれが核心です。筋を通そうとすると細かく説明したくなりますが、「読み手に伝えたいことは何か」という視点で削り落としていくと、文の焦点がくっきりします。

小説でも同じことが頻繁に起きます。「彼は長年の経験から培った独自の戦闘技術を駆使して、眼前に立ちはだかる敵に向かって渾身の一撃を放った」。……長い。伝えたいことは「彼が敵を斬った」。ならば「彼は斬った」から始めて、必要な情報だけを足していけばいいのです。

削ることの本質——「足す」ための余白を作る

ここで重要なのは、削ること自体が目的ではないという点です。削るのは、削った後により濃い一文を足すためです。

先ほどの例をもう一歩進めてみましょう。

「息子は、眠そうだ。」

「息子は、眠そうだ。試験当日だというのに。」

「試験当日だというのに」を足したことで、母親の不安、息子の状況、物語の方向性まで一気に見えてきます。ぜい肉を削ったから、この一言が効いたのです。だらだらした説明文のなかに同じ一文を入れても、埋もれてしまうでしょう。

もう一つ例を出します。

❌「彼女はとても悲しくて、もう何もかもが嫌になって、涙が止まらなくなって、その場にしゃがみこんでしまった。」

「悲しい」「嫌」「涙」「しゃがむ」——感情の説明を4重に重ねています。オッカムの剃刀を当てると:

⭕「彼女はしゃがみこんだ。」

行動だけを残す。読者は「なぜしゃがみこんだのか」を前後の文脈から読み取り、自分で感情を補完します。説明しないほうが、かえって感情が伝わる——これが削りの真髄です。

新人賞で「削り」が評価される理由

新人賞の選考において、多少クオリティが低くても無駄を最大限に省いた作品が勝ち残りやすい傾向があります。

なぜでしょうか。下読み(一次選考の読者)は何百本もの応募作を読みます。その状態で冗長な文章を読むと、「まだ続くのか」と感じて印象が悪くなる。一方、贅肉のない文章は読みやすく、物語の核が明確に伝わるため、先を読みたくなるのです。

ラノベやWeb小説の世界でも同じです。読者は最初の数行で「読み続けるかどうか」を判断しています。ダラダラした説明文で出迎えるか、切れ味のある一文で掴むか——その差は、削る勇気があるかどうかで決まります。

「削る」実践テクニック

テクニック1:述語から書く

日本語は述語が文末に来ます。つまり、一番伝えたいこと(述語)を先に決めて、そこに必要最低限の主語と修飾語だけを足していく。これが逆算式の書き方です。

「斬った。」→「剣を抜いて斬った。」→「鎧の隙間を狙って斬った。」

述語を起点にすると、不要な情報がそもそも入り込む余地がなくなります。

テクニック2:「〜のような」「〜的な」を疑う

「まるで嵐のような激しい戦闘が繰り広げられた」。この文で「まるで嵐のような」は必要でしょうか?「激しい戦闘が繰り広げられた」だけで十分伝わります。比喩が効いている場合は残しますが、説明の水増しになっている比喩は削りましょう。

テクニック3:同じ情報を二度書いていないか確認する

「彼は怒りに震えながら、拳を握りしめて、激怒した表情で立ち上がった」。「怒り」「拳を握る」「激怒した表情」——三回同じ情報を言っています。一つに絞りましょう。

⭕「彼は拳を握りしめて立ち上がった。」

怒りは拳を握る動作で十分伝わります。重複を削ることで、文に切れ味が出るのです。

テクニック4:削った後に「一文だけ足す」

ただ削っただけでは痩せ細った文になります。削って核が残ったら、物語の方向性を示す一文を足す。これがオッカムの剃刀の仕上げです。

「彼は拳を握りしめて立ち上がった。」

「彼は拳を握りしめて立ち上がった。まだ、終わっていない。」

削りと足しのセットで、文章は鋭く、深くなります。

まとめ

オッカムの剃刀の本質は「不要なものを削る」ことではなく、「本質だけを残す」ことです。削ることで生まれた余白に、一文だけ足す。この繰り返しが、あなたの文章に切れ味と深みをもたらします。推敲のたびに「この一文は本当に必要か?」と問いかけてみてください。


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