小説家に必要な能力とは|『小説家という職業』に学ぶ5つの力

2023年5月29日

「小説家になるには、どんな能力が必要なのか」——この問いに対して、多くの人は「文章力」と答えるかもしれません。しかし実際に小説を書き続けてみると、 文章力は必要な能力のほんの一部にすぎない と気づきます。

今回は、理系出身の兼業作家・森博嗣氏の著書『小説家という職業』を参考にしながら、小説家に必要な5つの能力を整理してみましょう。

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前提:「才能」ではなく「能力」の話

最初に断っておきたいのですが、ここで言う「能力」は 後天的に身につけられるもの です。生まれつきの才能の話ではありません。

森博嗣氏は名古屋大学の助教授として建築を研究しながら小説を書き始め、デビュー作『すべてがFになる』がベストセラーとなりました。工学の研究者が小説家として成功した事実は、 「小説に必要な能力は、小説以外のフィールドでも鍛えられる」 ことを証明しています。

これは兼業作家にとって朗報ではないでしょうか。本業で培った能力は、創作にもそのまま活きるのです。

能力1:観察力——「見る」ではなく「気づく」

小説家に最も必要な能力は、文章力ではなく 観察力 だと感じます。

電車の中で向かいに座った人の靴のすり減り方、カフェで話しているカップルの声のトーンの変化、部屋の隅に溜まった埃の厚さ。こうした細部に「気づける」かどうかが、描写の解像度を決めます。

シャーロック・ホームズがワトソンに言った有名な台詞がありますよね。「君は見ている。だが観察していない」。見ることと観察することは違う。 目の前にある情報から「意味」を読み取る のが観察力です。

鍛え方はシンプルです。毎日1つ、「今日気づいたこと」をメモしてみてください。「コンビニの店員が左利きだった」「空が15時から急にオレンジがかった」。こうした小さな気づきが、いずれ物語の中でリアリティのある描写として生きてきます。

能力2:構成力——素材を「順番」に並べる力

面白いアイデアがあっても、 伝える順番を間違えると面白さは半減 します。構成力とは、素材を最も効果的な順番に配置する能力のことです。

森博嗣氏はミステリー作家でもあるため、「どの情報をいつ出すか」の設計に非常に敏感です。ミステリーに限らず、すべての物語は「情報開示の順番」で面白さが決まるといっても過言ではないでしょう。

たとえばクリストファー・ノーラン監督の映画『メメント』は、時系列を逆にして見せるだけで傑作になりました。素材は同じでも並べ方を変えるだけで物語は劇的に変わるのです。

構成力を鍛えるなら、好きな作品のプロットを時系列順に並べ直してみてください。「なぜこの順番で見せたのか」が見えてくると、構成の勘所が掴めてきます。

能力3:持続力——書き続ける「仕組み」を作る力

才能がある人は山ほどいます。しかし 「書き続けられる人」は驚くほど少ない のが現実です。

森博嗣氏は「1日に何時間も書く必要はない。毎日少しずつ書けばいい」という主旨の発言をしています。村上春樹も毎朝決まった時間に机に向かうことで知られています。

持続力は気合いや根性ではなく「仕組み」で解決するものだと感じます。曜日を決める、場所を決める、最低文字数を決める。 書くかどうかを「判断」する機会を減らす ことが重要です。判断が入ると「今日は疲れたからやめよう」という選択肢が生まれてしまいますから。

兼業作家にとって持続力は最大の課題です。しかし裏を返せば、持続力さえあれば兼業でも勝負になるということでもあります。

能力4:客観力——自作を「読者の目」で読む力

自分の書いた文章は、どうしても甘く評価してしまいます。 「自分は面白いと思ったのに、誰にも読まれない」 という経験をしたことがある人は少なくないはずです。

客観力とは、自作を「初めて読む読者の目」で見る能力のことです。書いた直後は無理なので、 最低1週間は寝かせてから読み返す のが基本でしょう。

森博嗣氏は「自分の作品を嫌いになれるかどうか」を重視していました。自作を冷静に批判できる人は、改善ポイントを見つけられます。逆に自作を過剰に愛する人は、読者が離れていることに気づけません。

もう一つ有効なのが、 自作を音読すること です。黙読では流してしまう不自然な言い回しや、リズムの悪さが、声に出すと明確に感じられます。

能力5:学習力——他者の作品から技術を「盗む」力

これはすべての能力の土台になるものです。 他者の作品を「消費」するのではなく「分析」する 姿勢があるかどうか。

面白い作品を読んだとき、「面白かった」で終わる人と、「なぜ面白かったのか」を言語化する人。後者だけが創作の糧として吸収できるのです。

具体的な学習方法を挙げるなら、好きな作品の「自分が最も心を動かされた場面」を3行で要約してみてください。次に「なぜそこで心が動いたのか」を技術的に分析する。これを10作品繰り返すだけで、自分の中に「面白さの引き出し」ができていきます。

まとめ

能力核心
観察力「見る」から「気づく」へ。細部が描写のリアリティを作る
構成力素材の並べ方で面白さが決まる。順番を設計する力
持続力仕組みで書き続ける。判断の機会を減らす
客観力自作を読者の目で見る。寝かせてから読み返す
学習力「なぜ面白いのか」を言語化する習慣

5つの能力のうち、文章力は1つも入っていません。もちろん文章力は大切ですが、それは書き続ける中で自然に磨かれていく部分です。それよりも 「書き始める前」と「書いた後」の能力 ——つまり観察・構成・持続・客観・学習——を意識した方が、成長の速度は上がるのではないでしょうか。

5つの能力の自己診断

自分に足りない能力がどれなのかを具体的に把握するために、簡単な診断表を作りました。「はい」と「いいえ」で答えてみてください。

能力診断質問「いいえ」なら
観察力昨日、日常で「お」と思った細部を一つ挙げられるか今日から1日1メモを始めてみる
構成力好きな作品のプロットを時系列で説明できるか名作1つのプロットを時系列で書き出す
持続力先週、創作に関わる作業を「判断なしで」始められた日があるか曜日と時間を固定して「判断しない仕組み」を作る
客観力自作の「ここが弱い」を具体的に指摘できるか1週間寝かせてから音読してみる
学習力直近1か月で「この技術を学んだ」と言語化できるものがあるか好きな作品の「心が動いた場面」を3行で分析する

すべてに「はい」と答えられる必要はありません。 「いいえ」が最も多い能力が、今のあなたのボトルネック です。なぜなら、3つの能力が強くて1つが弱い場合、その1つが全体の足を引っ張っているからです。

本業のスキルを創作に転用する

森博嗣氏が建築研究者として培った論理的思考をミステリーのプロット設計に活かしたように、 本業で培ったスキルはそのまま創作に転用できる 場合が少なくありません。

たとえば営業職なら、人の話を聞く力が観察力に直結します。プログラマーなら、複雑な構造を設計する力が構成力に変わる。教師なら、人に何かを伝える経験がそのまま「読者に伝わる書き方」になる。

兼業作家が「本業が忙しくて書けない」と感じることはあるでしょう。しかしその本業の経験が 5つの能力のいずれかを日常的に鍛えている 可能性が高いのです。「書く時間が足りない」のではなく、「書くための能力は本業でも磨けている」と発想を切り替えてみてください。

もう一つ大切なことがあります。5つの能力はそれぞれ独立しているのではなく、 互いに強化しあう関係 にあります。観察力が上がれば学習力も上がる。客観力が上がれば構成力の弱点が見える。持続力があれば他の4つを磨く機会が増える。1つを伸ばせば、その波及効果で全体が底上げされるのです。「文章力以外の5つの能力」という視点を持つだけで、創作の伸びしろは大きく広がります。本業で培った力を創作に活かす視点を、ぜひ今日から意識してみてください。毎日の仕事の中にも、創作の種は落ちています。それを拾えるかどうかは、観察力次第です。今日、帰り道に一つだけ「お」と思うことを見つけてみてください。

あなたの5つの能力、今どれが一番足りていないでしょうか。足りないものを一つだけ意識するところから始めてみてください。

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