ITエンジニアがラノベ作家を目指すとき|技術屋の思考を創作に活かす5つのステップ
こんにちは。腰ボロSEです。
「ITエンジニアの経験は、小説を書くときに何かの役に立つのか?」——私自身、IT企業でSEとして15年働きながら、この疑問をずっと抱えていました。
結論から言えば、技術屋の思考は創作と相性がいいです。ただし、そのまま持ち込めば万事解決というわけではありません。活かせる部分と、意識的に切り替えなければいけない部分があります。
この記事では、ITエンジニアがラノベ作家を副業として始めるための5つのステップを、実体験をまじえながら解説します。
エンジニアの思考が創作に効く理由と落とし穴
論理的思考は「プロット」で威力を発揮する
エンジニアは日常的に「AならばB、BならばC」という因果関係を考えます。この思考は、物語のプロット設計にそのまま活きます。
「この出来事が起きたら、このキャラクターはこう動くはず」「この伏線を張ったからには、ここで回収する」——これはまさにシステム設計と同じ構造です。要件定義でユースケースを洗い出すように、物語のシナリオを網羅的に検討できるのは、技術者ならではの強みでしょう。
要件定義の癖——「正解がある」前提を捨てる
ただし、落とし穴もあります。
エンジニアは仕様書に「正解」があることに慣れています。要件を満たせばOK、満たさなければNG。しかし小説には正解がありません。「このキャラクターの行動は仕様書のどこに書いてある?」と聞きたくなる瞬間が来ますが、そこは自分で決めるしかないのです。
| エンジニアの思考 | 創作に活きる場面 | 切り替えが必要な場面 |
|---|---|---|
| 論理的な因果推論 | プロット設計・伏線管理 | キャラクターの「非合理な行動」を許す |
| 網羅的な場合分け | 世界観設定・ルール構築 | 読者が必要としない設定を切り捨てる |
| ドキュメント化の習慣 | アウトラインや設定資料の整理 | 書くことが目的化して本文が進まない |
| コードレビューの経験 | 推敲・他者フィードバックの受容 | 「バグ」ではなく「味」として残す判断 |
IT企業で15年働いて小説に効いた経験は「障害対応」だったの記事でも書きましたが、障害対応の経験——限られた情報から状況を推測し、仮説を立て、最善手を打つ——はそのまま物語のクライマックスの構築に通じます。
Step 1:インプット設計——好きな作品を「分解」する
エンジニアには馴染み深いことですが、「なぜこれが動くのか」を理解するには、まず分解する必要があります。
好きなラノベを5冊選んでください。そして、以下の観点で分解してみてください。
• 構成:何章構成か。起承転結のどこで何ページ使っているか
• テンポ:会話と地の文の比率はどれくらいか
• 冒頭:最初の3ページで読者を掴む仕掛けは何か
• キャラクター:主人公の初登場シーンでどんな情報を出しているか
これは「好きだから読む」のインプットとは別の作業です。エンジニアがOSSのソースコードを読むときの目線に近い。「なぜここはこの実装なのか」と問いながら読むことで、「面白い」の正体が構造として見えてきます。
ただし、分析に没頭しすぎて読書の楽しさを失うのは本末転倒です。1周目は純粋に楽しんで、2周目で分析する。この二段構えがおすすめです。
Step 2:プロット設計——設定資料で「要件定義」する
エンジニアが最も力を発揮するのがこのステップです。
物語を書く前に、以下の「設定3点セット」を作りましょう。
1. 物語の前提(要件定義書)
「どんな話か」を100字以内で書けるようにします。いわゆるログライン(一行あらすじ)です。
例:「腰を壊したSEが、異世界に転生して回復魔法の使い手になるが、回復魔法は自分の腰には効かない」
2. キャラクター設定(ER図的に考える)
キャラクター同士の関係性をER図のように図示すると、人間関係の抜け漏れが見えます。「この二人の間にはどんな感情の矢印があるか?」を明確にしておくと、シーンを書くときに迷いが減ります。
3. 世界観ルール(仕様書)
ファンタジーなら魔法のルール、SFなら技術の制約。制約があるからこそ物語が面白くなるという原則は、システム設計と同じです。「何でもあり」の世界は、実はいちばん書きにくいのです。
エンジニアにありがちなのは、この設定作業が楽しすぎて永遠に終わらないことです。設定資料が100ページを超えても1行も本文が書けていない——という状態には気をつけてください。「とりあえず動くもの」を先に出す。アジャイル的な発想がここでも有効です。
Step 3:執筆習慣の設計——「日次バッチ」で書く
エンジニアは、仕組みで回すことに慣れています。執筆もまた、モチベーションではなく仕組みで回すものです。
1日500字の「日次バッチ処理」
毎日1,000字は書きましょう——と言いたいところですが、いきなりは無理です。まず500字から始めてください。原稿用紙1.25枚。これを毎日の「日次バッチ」として処理します。
500字 × 365日 = 182,500字。ラノベ1冊が約10万字ですから、1年で1.8冊分 の分量になります。
| 1日の執筆量 | 年間文字数 | ラノベ換算 |
|---|---|---|
| 500字 | 182,500字 | 約1.8冊 |
| 1,000字 | 365,000字 | 約3.6冊 |
| 2,000字 | 730,000字 | 約7.3冊 |
大切なのは「休まないこと」ではなく、「再開できる仕組み」を作ることです。cronジョブと同じで、1回コケてもリトライできるようにしておく。具体的には、前日の最後の1文を途中で止めておくのが効果的です。次の日、続きを書くところから入れるので、起動コストが下がります。
書く時間は「見つける」ものではなく「設計する」ものでも詳しく書いていますが、兼業作家にとっていちばん大事なのは時間の「設計」です。通勤時間、昼休み、寝る前の30分。使えるスロットは意外とあります。
Step 4:推敲——「コードレビュー」のつもりで磨く
一次稿が書き上がったら、推敲に入ります。ここもエンジニアの経験が活きるステップです。
セルフレビューの3パス
| パス | 目的 | チェック内容 |
|---|---|---|
| 1回目 | ロジックチェック | プロットに矛盾はないか。伏線の回収漏れはないか |
| 2回目 | コードスタイル(文体)チェック | 同じ文末が3回連続していないか。同じ描写が繰り返されていないか |
| 3回目 | UXチェック(読者体験) | テンポは適切か。読者が離脱しそうな箇所はないか |
コードレビューと同じで、1回の推敲で全部を見ようとしないこと が重要です。目的を絞って3回に分けるほうが、結果的に品質が上がります。
また、他者からのフィードバックも積極的に受けましょう。Web小説投稿サイトのコメントは、ユーザーテストのフィードバックと同じです。「面白い」よりも「ここで読むのをやめた」という情報のほうが、改善に直結します。
Step 5:公開と収益化——「まずはリリース」の精神で
完璧を求めて公開しない——これはエンジニアが陥りやすい罠です。
Web投稿サイトで連載を始める
「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」など、Web小説投稿サイトは無料で使えるプラットフォームです。いわばGitHubのようなもので、まず公開して反応を見る。完璧でなくていいので、週1〜2回の更新ペースを維持する ことが最優先です。
Web小説投稿サイト徹底比較で各プラットフォームの特徴を整理していますので、参考にしてみてください。
収益化のルート
| ルート | 難易度 | 概要 |
|---|---|---|
| Web投稿サイトの収益プログラム | ★☆☆ | カクヨムのリワード、アルファポリスのスコア報酬など |
| Kindle出版(KDP) | ★★☆ | 自分でKDP登録して電子書籍化。ロイヤリティ最大70% |
| 書籍化(出版社からのオファー) | ★★★ | Web連載でPVが伸びれば出版社から声がかかることも |
最初から収益を期待しすぎないことも大切です。最初の1年は「書く力を鍛える期間」と割り切って、まず1本を完結させることを目標にしてみてください。KDP出版ガイドも参考になります。
まとめ
| ステップ | 内容 | エンジニアの強みが活きるポイント |
|---|---|---|
| Step 1 | インプット設計 | OSS的に作品を「分解」する目線 |
| Step 2 | プロット設計 | 要件定義・ER図・仕様書の思考法 |
| Step 3 | 執筆習慣設計 | 仕組みで回す「日次バッチ」方式 |
| Step 4 | 推敲 | コードレビューの3パス手法 |
| Step 5 | 公開・収益化 | 「まずはリリース」のアジャイル精神 |
ITエンジニアの経験は、想像以上に創作に活きます。論理的思考はプロットに、ドキュメント化の習慣は設定資料に、コードレビューの経験は推敲に。ただし、「正解がある」前提を手放すことだけは意識してみてください。物語に仕様書はありません。あなたが書いた言葉が、そのまま仕様になるのです。
どうですか、書ける気がしてきましたか? エンジニアとしてコードを書いてきたあなたには、すでに「構造を設計する力」と「根気よくデバッグする力」があります。あとは物語という新しい言語に向き合うだけです。もし悩むことがあったら、このブログに戻ってきてください。同じように初心者だった私が、基礎から応用まで気づいたことを書き綴っています。
さあ、今日も物語を書きましょう。あなたの傑作を待っています。
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