【映像×創作】『Hello World』から学ぶ「98分で3人の物語を完結させる構造設計」

2019年10月6日

「お前は今日から三か月後、一行瑠璃と恋人同士になる」

京都に暮らす内気な男子高校生・直実(北村匠海)の前に、10年後の未来から来た自分を名乗る青年・ナオミ(松坂桃李)が突然現れる。

ナオミによれば、同級生の瑠璃(浜辺美波)は直実と結ばれるが、その後事故によって命を落としてしまうと言う。

「頼む、力を貸してくれ。」彼女を救う為、大人になった自分自身を「先生」と呼ぶ、奇妙なバディが誕生する。

しかしその中で直実は、瑠璃に迫る運命、ナオミの真の目的、そしてこの現実世界に隠された大いなる秘密を知ることになる。
世界がひっくり返る、新機軸のハイスピードSF青春ラブストーリー。

https://hello-world-movie.com/


2019年秋、京都を舞台にしたSFアニメーション映画『Hello World』が公開されました。3DCGと手描きを融合した映像美が話題になりましたが、この作品の本当のすごさは別のところにあると感じています。それは、たった98分の上映時間で、直実・ナオミ・瑠璃という3人のキャラクターの物語を、すべて破綻なく完結させている点です。

終わらせ方がこの上なく美しく、とてつもなく心を動かされた名作でした。

普通、複数キャラクターの物語を並走させると、尺が足りなくなって誰かの描写が薄くなりがちですよね。しかし本作はそのどれも手を抜いていません。なぜ98分でそれが可能だったのか。3つの仮説を立てて考えてみました。

仮説1:「仮想世界の入れ子構造」が時系列の圧縮装置になっている

本作の最大の仕掛けは、主人公・直実が暮らす世界そのものが仮想現実だったという反転構造です。現実世界のナオミが、仮想世界の過去に介入して瑠璃を救おうとする——この設定は単なるサプライズではなく、物語構造上の利点を複数もたらしています。

まず、「直実の成長物語」と「ナオミの贖罪と献身の物語」を同じ時間軸の上で同時に動かせるということ。通常なら、若い主人公の成長を描いたあとで時間を飛ばして大人編に入る必要がありますが、仮想世界の入れ子構造によって「過去の自分」と「未来の自分」を物理的に同一空間に配置できています。

これは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のタイムトラベル構造に似ていますが、決定的な違いがあります。マーティとドクの関係は師弟に近いのに対して、直実とナオミは同一人物です。つまり、直実の決断がそのままナオミの過去の追体験になるという、感情の二重化が自然に発生するんですよね。観客は直実に感情移入しながら、同時にナオミの痛みも受け取ることになります。

この「同一人物の二重配置」という構造は、入れ子世界の設定がなければ成立しません。SFのギミックが物語圧縮のエンジンとして機能している好例だと感じます。

仮説2:「3Dアニメーション」と「仮想空間」の設定一致が情報コストを下げている

ここで注目したいのが、映像表現と物語設定の一致です。本作が3DCGで制作されているという事実は、「この世界は仮想現実である」という物語の核心と一致しています。観客は映像を見ているだけで、無意識にこの世界がデジタルな存在であることを受け入れる下地が作られているのです。

手描きアニメーションで同じ物語をやったらどうなるか想像してみてください。仮想世界の反転を明かされたとき、「でもさっきまで手描きの温かみのある世界だったのに?」という違和感が生まれかねません。3DCGの質感が仮想世界のリアリティを担保し、その分、設定説明に使うはずの尺を圧縮しています。

これは『マトリックス』が緑がかったカラーグレーディングで仮想世界を表現したのと同じ手法です。映像のルック自体が世界観の説明を兼ねることで、言葉で語る量を減らせる。この「見た目が設定を語る」デザインは、小説でも応用可能です。例えば、ファンタジーの街を描写するとき、建材に使われている石の色だけで「この国は火山地帯の近くにある」と伝えられれば、地理の説明を省略できますよね。

仮説3:「瑠璃の二重完結」が情緒の天井を引き上げる

瑠璃というキャラクターの設計が、本作の感動の核をなしています。彼女は直実の恋人であり、同時にナオミの恋人でもある。しかし「直実にとっての瑠璃」と「ナオミにとってのルリ」は、見た目は同じでも物語上の立ち位置がまるで違います。

直実の物語における瑠璃は、「最悪の出会いから始まる初恋の相手」です。バスの中で顔をはたかれるところから始まり、図書委員の活動を通じて距離が縮まり、恋人になる。これは古典的なボーイ・ミーツ・ガールの型をきちんと踏んでいます。

一方、ナオミの物語におけるルリは、「取り戻すべき存在」であり「赦しを与える存在」です。ナオミは瑠璃を救うためなら過去の自分さえ犠牲にしていいと考えますが、その独善を瑠璃自身に拒絶されます。そして、その拒絶を受けて初めてナオミは「過去の自分のために命を使う」という選択をします。

ここで思い出されるのは、『シュタインズ・ゲート』の岡部倫太郎です。彼もまた、一人の人物を救うために何度も世界を改変し、やがて自分自身の覚悟と向き合うことになります。しかし本作がユニークなのは、ナオミの決断が「瑠璃に拒絶される」という挫折を経由している点です。「助けに行ったのに拒否される」という絶望があるからこそ、そのあとの献身が単なるヒーローの自己犠牲ではなく、「赦されたうえでの覚悟」になっている。

クライマックスのナオミのセリフ「そうさ、信じれば何でもできる」——初めて観たとき、私の脳はフリーズしました。心が動きすぎて何も考えられなくなったのです。その感覚は、この二重構造の帰結だと考えます。直実の初恋が完結し、ナオミの贖罪が完結し、瑠璃のボーイ・ミーツ・ガールが完結し、ルリの「待つ物語」が完結する。4つの物語が1つのセリフで同時に閉じる瞬間です。

あなたの物語に活かすなら

『Hello World』の構造から、3つの創作ヒントを抽出できます。

1. 設定と映像表現を一致させる

物語の世界設定と、それを表現する「媒体の質感」を一致させると、説明に使うコストが大幅に減ります。小説であれば、文体そのものが世界観を体現するという方法が考えられます。例えば、管理社会を描くなら感情表現を極力排した乾いた文体にしてみる。それだけで世界の息苦しさが文章から伝わりますよね。

2. 同一人物の時間差配置で物語を圧縮する

「若い自分」と「大人の自分」を同一シーンに配置する手法は、タイムリープやループものだけでなく、回想の構成にも応用できます。例えば、主人公が昔の日記を読み返すシーンで、「あの頃の自分」と「今の自分」を対話させるような構成はどうでしょうか。物語上は一人称の回想ですが、読者には二つの時間軸が同時に見える効果が生まれます。

3. 一つのセリフで複数の物語を閉じる

複数キャラクターの感情が一点に収束するクライマックスを設計するなら、そのセリフが誰にとって何を意味するかをあらかじめ設計しておくことが大切です。全員にとって違う意味を持つ一言が、物語の最高到達点になります。

技法『Hello World』での実装あなたの物語での応用例
設定×表現の一致3DCGが仮想世界を体現文体で世界の空気を伝える
同一人物の時間差配置直実とナオミの同一空間配置回想で「過去の自分」と対話させる
一言複数完結「信じれば何でもできる」で4つの物語が閉じるクライマックスのセリフの多重設計

まとめ

『Hello World』は、SFの入れ子世界を物語圧縮のエンジンとして活用し、3DCGと仮想世界の設定一致で説明コストを下げ、瑠璃の二重完結で感動を増幅させた作品です。勉強になりました。

98分という限られた尺の中で3人の物語を完結させた設計は、私たち創作者にとって非常に実用的な教材だと思います。特に短編や読み切りを書くとき、「時間が足りない」と感じたことはありませんか。そんなとき、本作の手法——設定そのものを圧縮装置にするという発想は、きっと突破口になるはずです。

どうですか、書ける気がしてきましたか。もし物語の構造で悩むことがあったら、このブログに戻ってきてください。同じように初心者だった私が、基礎から応用まで気づいたことを書き綴っています。

さあ、次はあなたの番です。あなたの物語のキャラクター全員が「おさまるべきところにおさまる」ラストシーンを、ぜひ設計してみてください。

ここまで読んで頂きありがとうございました。
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