「表現力がない」を解消する|小説の表現力を高める4つの鍛え方
「自分には表現力がない」——小説を書いていると、一度はこの壁にぶつかるのではないでしょうか。頭の中にある映像や感情を、文字にした途端に色褪せてしまう。伝えたいことの半分も伝わっていない気がする。
その気持ち、よくわかります。でも「表現力がない」という悩みは、実はとても前向きな悩みです。なぜなら自分の文章に「まだ足りない」と気づける人は、すでに成長の入口に立っているからです。この記事では、表現力の正体を明確にしたうえで、具体的に鍛える4つの方法を紹介します。
表現力の正体——著作権が教えてくれること
表現力とは何か。これを考えるとき、意外なヒントをくれるのが著作権法です。
「プロットやアイデア」は著作権の保護の対象外と考えられており、基本的に許可を 得る必要がありません。 ただし、「既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる」場合 は、既存の著作物の許可を得なければならないとの判例もあります。
http://koenkyo.main.jp/wp-content/uploads/2019/07/guideline2019.pdf
「プロットやアイデア」であっても、既成著作物から意図して多くを参考にして、著 作物の表現上の本質的な特徴を直接感得できるような可能性のある場合は、著作権者 の確認をとることを奨励します。
著作権法が保護するのは「表現」であり、「アイデア」は保護されません。たとえば「勇者が魔王を倒す物語」というプロットは誰でも使えます。しかし、その物語をどんな言葉で、どんなリズムで、どんな比喩を使って描くか——その表現だけが、あなただけのものとして守られるのです。
つまり表現力とは、「あなたにしか書けない文章」を生み出す力だと言い換えられます。
| 著作権で保護されないもの | 著作権で保護されるもの |
|---|---|
| 勇者が魔王を倒すプロット | そのプロットをどう描写するか |
| 「悲しい」という感情 | 悲しさをどう表現するか |
| 異世界転生というジャンル | その世界をどんな言葉で語るか |
これは裏を返せば、プロットやアイデアがどれほど優れていても、表現力がなければ他の作品と差別化できないということです。ではどうすれば表現力を鍛えられるのでしょうか。
表現力を鍛える4つの方法
方法①:五感で観察する
表現力の土台は観察力です。目の前のものをどれだけ精密に捉えられるかが、そのまま文章の解像度になります。
よくある失敗は「目(視覚)」だけで描写してしまうことです。「青い空が広がっている」——悪くはありませんが、これだけでは映像が薄い。ここに他の感覚を足してみましょう。
• 視覚:雲ひとつない空が、端から端まで青に染まっている
• 聴覚:風が電線を鳴らし、遠くでカラスが一声啼いた
• 触覚:アスファルトの照り返しが足の裏まで届く
• 嗅覚:どこかで誰かが洗濯物を干したのか、柔軟剤の甘い匂いがする
• 味覚:口の中がからからに渇いて、唾液に夏の味がする
五感すべてを書く必要はありません。視覚+もう1つを加えるだけで、描写の立体感は劇的に変わります。宮崎駿監督の映画は「風の音」「草のにおい」「パンを噛む音」など、視覚以外の感覚が丁寧に描かれていますよね。それが世界に没入させる力になっています。
方法②:体験を蓄積する
書いたことのない感覚は、どうしても借り物の表現になります。「戦場の恐怖」を実体験する必要はありませんが、恐怖そのものの身体感覚——心臓が跳ね上がる、指先が冷たくなる、視界が狭くなる——は日常の中でも経験できます。
ホラー映画を観たとき、急な坂道を自転車で下ったとき、面接の直前。そういった瞬間に自分の体がどう反応したかをメモしておくのが、表現力の貯金になります。
村上春樹はマラソンを走りますし、東野圭吾はスキーに打ち込んでいました。体を動かすこと、日常から少し外れた体験をすることは、表現の引き出しを確実に増やしてくれます。
方法③:大量に読む——ただし「読み方」を変える
「たくさん読めば表現力が上がる」とはよく言われますが、ただ読むだけでは不十分です。ポイントは2周目の読み方にあります。
1周目は普通に楽しむ。2周目は「この一文、なぜ自分の心が動いたのか?」と立ち止まって分析する。たとえば太宰治の「走れメロス」冒頭——「メロスは激怒した。」——たった8文字。なぜこの短さが読者を掴むのかを考えると、情報の省略が牽引力を生むという技術が見えてきます。
おすすめの訓練は「好きな一文ノート」を作ることです。気に入った表現を書き写し、横に「なぜ好きか」を一言添える。これを30個も集めれば、あなた自身の表現の傾向や好みが可視化されます。
方法④:同じ場面を何度も書き直す
表現力がもっとも鍛えられるのは、同じ内容を違う言葉で書き直す反復練習です。
「彼女は泣いた」——この一文を、5通りの表現で書き換えてみてください。
1. 涙が頬を伝い、あごの先でしずくになった
2. 声を殺して、肩だけが震えていた
3. 瞳が潤んで、睫毛の先に光が溜まった
4. 泣いた。ただ黙って、泣いた
5. 彼女の目から、言葉の代わりに水が落ちた
どれが正解かは文脈によって変わります。大切なのは選択肢を持っているかどうかです。1通りしか思いつかないのと5通り持っているのとでは、推敲の精度がまるで違います。
方法⑤:アメリカの心理学者ロバート・プルチックの提唱した感情モデル
表現力とは、自分の心に思うこと、感ずることを他人に伝える力と言えるのではないでしょうか。
つまり
①感情を表現する言葉をよく知ること
②自分の表現したい感情をよく理解すること
が表現力を高めるヒントになります。
②を達成するためには①の言葉を知っておく必要がありますから、表現力をあげるためには、アメリカの心理学者ロバート・プルチックの提唱した感情モデルが役に立つかもしれません。
プルチックは、人間の基本的な感情を『喜び・信頼・恐れ・驚き・悲しみ・嫌悪・怒り・期待』の8つとしてまとめ、感情同士が繋がっていると考えました。
喜び→恍惚:希望が達成されたときや、優しさを感じたとき気持ち
信頼→敬愛:心配することなく、信じて安心できる気持ち
恐れ→恐怖:害悪や危険な事柄に対して逃避したいと感じる気持ち
驚き→共感:予期しない事柄を体験したときの瞬間的な感情
悲しみ→悲観:物事がうまくいかなかったり、大切なものを失ったときの気持ち
嫌悪→強い嫌悪:憎み嫌い、不快な気持ち
怒り→激怒:侮辱されたり傷つけられたりした時におこる不愉快な気持ち
期待→警戒:物事が自分の思い通りになることを望む気持ち
※外にいくほど浅い感情、中心にいくほど深い感情となります。
作品を書く前には、この循環を眺めて、自分が表現したい感情はどれなのかを明確にしてみましょう。
表現力が伸びない人に共通する特徴
表現力の鍛え方を紹介しましたが、「やっているのに伸びない」という方もいるかもしれません。そういう場合、以下の3つに心当たりはないでしょうか。
特徴①:インプットだけでアウトプットしない
読書量は十分なのに、書く量が圧倒的に足りないパターンです。表現力は使わなければ身につかない筋力のようなものです。100冊読むより、10冊読んで100回書き直すほうが効果があると感じます。
特徴②:「正解」を探してしまう
「この場面はどう書くのが正しいのか?」と正解を求めてしまうと、表現が硬直します。正解はひとつではなく、文脈と作風によって変わるもの。まずは「自分はこう書きたい」という直感を信じて書いてみてください。推敲はその後でいいのです。
特徴③:他人の文章と比較しすぎる
好きな作家の文章と自分の文章を比べて落ち込む——これは誰もが通る道です。しかし表現力とは「あなたにしか書けない文章を生む力」でした。他人と同じ表現ができることではなく、あなただけの観察と体験から生まれる言葉にこそ価値があります。
あなたの物語で表現力を活かすなら
ここまで読んで「なるほど、五感で観察して、体験を蓄積して、読んで、書き直すのか」と整理できたのではないでしょうか。
具体的な練習として、こんなことを試してみてはいかがでしょうか。
• 今日の帰り道を五感で描写する(200字以内)
• 好きな小説から「この一文が好き」を3つ抜き出して理由を書く
• 自作の中で「弱いな」と感じる描写を1つ選び、3通りに書き換える
どれも10分あればできます。表現力は一夜にして身につくものではありませんが、毎日少しずつ積み上げれば、半年後には確実に変わっています。
まとめ
表現力とは「あなたにしか書けない文章を生み出す力」です。著作権が守るのはアイデアではなく表現——だからこそ、表現力はあなたの作品を唯一無二にする最大の武器になります。五感で観察し、体験を蓄積し、2周目の読書で技法を盗み、同じ場面を何度も書き直す。この4つの積み重ねが、表現の引き出しを確実に増やしてくれるはずです。
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