いつもの自分と違う場所を目指す意味|創作者にとっての「不得意への挑戦」

2020年1月11日

毎年の目標を立てるとき、 「いつもと同じようなこと」を書いていませんか 。もっとたくさん書く、もっと早く書く、もっと上手に書く——方向性は正しいのですが、それは「得意なことをさらに伸ばす」目標であって、「できなかったことに挑む」目標ではありません。

私自身にも思い当たることがあります。物語を書くのは好きだけれど、 設定を緻密に固めるのは苦手 でした。勢いで書き始めて、途中で辻褄が合わなくなる。世界観設定を後回しにして、キャラの行動だけで押し切る。いわば 「建物先行型」 ——基礎を固める前に壁を建ててしまうタイプです。

今回は「いつもの自分と違う場所を目指す」ことの意味を、創作者の成長という視点から考えてみましょう。

創作ノウハウ200超|小説の書き方ガイド

建物先行型と基礎先行型

創作者のタイプを大きく分けると、 「建物先行型」と「基礎先行型」 に分類できます。

タイプ特徴強み弱み
建物先行型まず書き始めて、走りながら考える勢いがある。初速が速い。読者を引き込む力がある後半で破綻しやすい。設定に矛盾が生じやすい
基礎先行型設定とプロットを固めてから書き始める構造が安定している。伏線回収が得意書き始めるまでに時間がかかる。「準備」で終わりがち

どちらが優れているという話ではありません。問題は 自分のタイプに安住してしまう ことです。

建物先行型の人は「書きながら考えるのが自分のスタイルだ」と言いがちですが、それは単に 基礎固めという苦手な作業を回避している だけかもしれません。逆に基礎先行型の人は「まだ準備が足りない」と言いつつ、実は 書き始めることへの恐怖を先送りしている だけかもしれない。

自覚しているかどうか が重要です。自分がどちらのタイプかを把握した上で、苦手な方にあえて挑む。これが「いつもの自分と違う場所」を目指すということです。

コンフォートゾーン理論と創作の成長

心理学には コンフォートゾーン理論 という概念があります。人間の活動領域を3つの同心円で表すモデルです。

ゾーン状態創作での例
コンフォートゾーン安心。ストレスなしいつものジャンル、いつもの構成、いつもの文体で書く
ラーニングゾーン適度な緊張。成長が最も速い書いたことのないジャンルに挑む。苦手な描写を練習する
パニックゾーン過度なストレス。思考停止締切直前に全く新しい手法で長編を書こうとする

成長が起きるのは ラーニングゾーン だけです。コンフォートゾーンにいる限り上達はなく、パニックゾーンに入ると学習どころではなくなります。

ここで重要なのは、 ラーニングゾーンは「ちょっとだけ怖い」レベル だということです。「全く知らないジャンルで10万字の長編を書け」はパニックゾーン。しかし 「いつも書いているファンタジーの中で、ラブコメ要素を1章だけ入れてみる」 はラーニングゾーンです。

この理論が面白いのは、 ゾーンの境界は人によって違う という点です。同じ「恋愛描写を書く」でも、恋愛経験が豊富な人にとってはコンフォートゾーンかもしれないし、恋愛小説を一度も読んだことがない人にとってはパニックゾーンかもしれない。大切なのは他人の基準ではなく 自分にとっての「ちょうどいい難しさ」を正直に見極める ことです。

この「ちょうどいい難しさ」を自分で設計できるかどうかが、創作者として長く成長し続けられるかの分かれ目になります。

不得意への挑戦を設計する5ステップ

漠然と「苦手に挑もう」と思っても実行できないのが人間です。 挑戦を具体的に設計する方法 を5ステップで整理します。

ステップやること
①弱みを特定する自分が避けている作業・ジャンル・技法を書き出す「世界観設定が苦手」「恋愛描写を避けている」
②最小単位にするいきなり大作に挑まず、短い練習課題にする「1,000字の短編で恋愛場面だけを書く」
③既存の強みと組み合わせる得意分野の中に苦手要素を入れる「いつもの異能バトルに一章だけ日常会話を挟む」
④期限を決める完璧を目指さず、締切を区切る「今週中に書く。出来はどうでもいい」
⑤振り返る書いた後に「何が難しかったか」を記録する「恋愛シーンで台詞のテンポが取れなかった」

ステップ②の「最小単位にする」 が最も重要です。パニックゾーンに入らないために、挑戦のサイズを制御するのです。

たとえば「プロット作りが苦手」なら、いきなり長編のプロットを作る必要はありません。 「起承転結を4行で書く」 だけで十分です。それができたら8行に増やし、次は1ページに伸ばす。階段を小さく設計すれば、パニックゾーンに入ることなくラーニングゾーンを歩き続けられます。

いつもと違う自分は、いつもの自分を強くする

不得意に挑むことの最大のメリットは、 苦手が得意になることではありません 。自分の得意分野が強化されることです。

世界観設定が苦手な建物先行型の人が設定作りに挑んだとしましょう。完璧な設定を作れるようにはならないかもしれない。しかし 「設定を考える感覚」を体験した上で書く文章 は、以前とは確実に変わります。キャラの行動に説得力が増し、世界の奥行きが深まる。

元のタイプ不得意に挑んだ結果得意分野への影響
建物先行型が設定作りに挑む最低限の矛盾を回避できるようになる勢いのある物語に構造的安定感が加わる
基礎先行型が「とりあえず書く」に挑む完璧でなくても公開できるようになる緻密な設定がスピード感のある文章で活きる
バトルが得意な人が恋愛に挑む感情描写の引き出しが増えるバトルシーンのキャラ間の感情が深くなる
短編が得意な人が長編に挑む構成力が伸びる短編の密度が「圧縮された長編」に変わる
一人称が得意な人が三人称に挑む俯瞰の視点が身につく一人称でも「客観」が混じった奥行きが出る

逆に言えば、 コンフォートゾーンに留まり続けると「得意なこと」すら成長しなくなる のです。同じような作品を同じように書き続けると、技術は停滞し、やがて読者にも飽きられます。 「いつもと違う場所」への一歩は、自分の核を強くする投資 なのです。

挑戦を挫折させない工夫

不得意に挑むと決めても、途中で投げ出してしまう人は少なくありません。そこで 挫折を防ぐ3つの工夫 を補足しておきます。

工夫1:記録を残す。 挑戦の過程で「何が難しかったか」「何を学んだか」をメモしておく。ノートでもスマホのメモでも構いません。記録があると、 停滞しているように見える時期でも実は進んでいた ことが後から確認できます。特に「書けなかった日」にこそ、なぜ書けなかったかを一行だけ書いておくと貴重な振り返り材料になります。

工夫2:仲間に宣言する。 SNSやブログで「今月は恋愛描写に挑戦します」と公言する。他者の目があるだけで 継続率が格段に上がる というのは心理学でも実証されているところです。宣言した以上やらねば恥ずかしいという軽い社会的プレッシャーが、怠惰な自分を動かしてくれます。

工夫3:完璧を求めない。 不得意に挑むのだから、 出来が悪いのは当然 です。むしろ最初から上手く書けたらそれは「不得意」ではなかったということでしょう。重要なのは完成度ではなく「やったかどうか」。60点の出来でも完走した経験は、次の挑戦のハードルを確実に下げてくれます。

挫折パターン原因対策
始めたけど3日で止まった挑戦が大きすぎたステップ②に戻り最小単位にする
やっても成長を感じないフィードバックがない記録を残し、1ヶ月前と比較する
そもそもやる気が起きない一人でやっているSNS等で宣言して社会的圧をかける
出来が悪すぎて嫌になった完璧主義60点で完走を目標にする

今年の目標を立てるなら、いつもの「もっとたくさん書く」に加えて、 「一つだけ苦手なことに挑む」 を入れてみてください。それが何であれ、半年後には確実に以前の自分より強くなっているはずです。挑戦は華々しいものである必要はありません。「いつもは書かない会話シーンを1ページだけ書いてみた」——その一歩が、あなたの創作者としての器を広げてくれます。

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