キャリアの掛け算で100万分の1の存在になる|創作者が「大三角形」を描くための戦略
「小説を書いている」と職場で打ち明けたとき、大半の反応は「へえ、すごいね」で終わります。しかし「小説を書いていて、IT企業でSEもやっていて、ブログでSEOも回している」と言うと、反応が少し変わります。「……それ全部やってるの?」と。
この「掛け合わせの希少性」こそ、藤原和博氏が『100万人に1人の存在になる方法』で提唱した「キャリアの掛け算」の本質です。
この記事では、この考え方を 創作者の視点 で読み解きます。小説を書くことは「3つ目のキャリア」になり得るのか。生成AI時代に「掛け算」はどう変わるのか。実体験をまじえて考えていきます。
「キャリアの掛け算」の基本構造
100人に1人 × 100人に1人 × 100人に1人 = 100万人に1人
藤原和博氏の理論はシンプルです。ひとつの分野で100人に1人になるのは、目安として1万時間(約10年)の努力が必要。これを3つの分野で達成すれば、掛け算の結果 100万人に1人 の希少な存在になれるという考え方です。
| ステップ | 到達点 | 必要な目安 |
|---|---|---|
| 1つ目のキャリア | 100人に1人 | 約1万時間(10年) |
| 2つ目のキャリア | 1万人に1人 | さらに約1万時間 |
| 3つ目のキャリア | 100万人に1人 | さらに約1万時間 |
重要なのは、ひとつの分野で100万人に1人を目指すのではないということです。それは大谷翔平選手やイチロー選手のような天才にしかできません。しかし3つの分野それぞれで100人に1人レベルに到達するのは、凡人にも手が届く目標です。
「大三角形」——3つのキャリアの配置
藤原氏はこの3つのキャリアを「大三角形」と呼んでいます。三角形の面積が大きいほど、その人の希少性は高くなります。
ポイントは、3つ目のキャリアが1つ目・2つ目から「遠い」ほど三角形が大きくなることです。
| 三角形のタイプ | 例 | 希少性 |
|---|---|---|
| 近い三角形 | 営業→マーケティング→広報 | 中程度(同業界内) |
| 遠い三角形 | IT→小説執筆→ブログ運営 | 高い(異業種をまたぐ) |
| 非常に遠い三角形 | 元自衛官→小説執筆→料理研究家 | 非常に高い |
有賀リエ先生の『作りたい女と食べたい女』は、料理×ジェンダー×日常という異なる領域の掛け算が独自の立ち位置を生んでいます。よしながふみ先生の『きのう何食べた?』も、料理×BL×日常法律という「遠い三角形」の成功例と言えるでしょう。
創作者にとっての「掛け算」を考える
「小説を書く」は何番目のキャリアか
多くの創作者にとって、「小説を書く」は1つ目のキャリアではありません。本業があり、その傍らで書いている方がほとんどです。
つまり、すでに三角形の1辺目は持っている のです。
| あなたの本業(1つ目) | 小説執筆(2つ目) | 3つ目の候補 |
|---|---|---|
| ITエンジニア | ラノベ執筆 | ブログ・メディア運営 / ゲーム開発 / AI活用 |
| 看護師 | 医療系ファンタジー | 看護師向け教育コンテンツ / 心理学 |
| 教師 | 児童文学・YA小説 | 教育メソッド発信 / 講演 |
| 会計士 | 経済系ミステリー | 資産運用ブログ / 経営コンサル |
ここで考えてほしいのは、本業の経験はそのまま小説のリアリティになる ということです。
USJをV字回復させた森岡毅氏は、P&Gでのブランドマネジメント経験をマーケティングに転用し、さらにそこから独自のコンサルティング事業を展開しました。これは「マーケティング × テーマパーク × 経営コンサル」という掛け算です。
創作者も同じ構造を持っています。本業で得た「リアルな経験」は、他の作家には書けない描写の厚みになります。IT企業で15年働いて小説に効いた経験は「障害対応」だったでも書きましたが、障害対応の緊張感をそのままクライマックスに持ち込んだとき、読者の反応が明らかに変わりました。
生成AI時代の掛け算——100人に1人のハードルが下がった
2026年現在、生成AIの登場によって「100人に1人」に到達するスピードが大幅に速くなっています。
画像生成AIの登場で、絵が描けなかったクリエイターがイラストを生成できるようになりました。音楽生成AIの登場で、楽器を弾けなかった人がアイドルソングを作れるようになりました。
以下はアイドルマスターのイラスト生成で有名な37番さんのポストですが、3時間程度でアイドルソングを作成できたことが報告されています。このようにマルチクリエイターとして活動していくことが、AI時代のクリエイターの当たり前になっていくでしょう。
これは「掛け算の三角形」を描くスピードが上がったということです。
| 従来 | 生成AI時代 |
|---|---|
| 1辺目で10年→2辺目で10年→3辺目で10年 | 1辺目で10年→2辺目で5年→3辺目で3年(AI支援) |
ただし注意点があります。AIがハードルを下げるということは、同じ三角形を描く人が増える ということでもある。「小説 × イラスト × 音楽」という掛け算は、AIの力でかつてより容易に実現できるようになりましたが、それだけに希少性が薄れるリスクもあります。
差別化のカギは、やはり「本業で培ったリアルな経験」というAIには代替できない辺にある——と私は考えています。
3つ目のキャリアを選ぶときの判断基準
漠然と「3つ目のキャリアを見つけよう」と思っても、なかなか動けません。以下の3つの基準で絞り込むと、選びやすくなります。
基準①:本業と創作の「間」を埋めるもの
例えばIT業界にいる人間が小説を書く場合、IT × 小説の「間」にあるのは、例えば技術ブログ、ゲームシナリオ、プログラミング教材の執筆などです。すでに持っている2辺を自然につなぐ領域を探すと、学習コストが低く、成果が出やすくなります。
基準②:アウトプットが「コンテンツ」になるもの
3つ目のキャリアが「営業スキル」のように不可視のものだと、掛け算の効果が外部から見えにくい。ブログ、YouTube、ポッドキャストなど、目に見えるコンテンツとして蓄積されるもの を選ぶと、希少性が可視化されます。
基準③:10年後も価値があるもの
トレンドに乗るだけの3辺目は、流行が終われば三角形が崩壊します。「自分が5年後もやっていたいか?」を基準に選ぶことをおすすめします。
| 判断基準 | 良い例 | 避けたい例 |
|---|---|---|
| 本業と創作の「間」 | 技術ブログ、ゲーム開発 | 本業とも創作とも無関係な資格取得 |
| コンテンツとして蓄積 | ブログ、YouTube、同人誌 | 社内調整力(見えない) |
| 10年後も価値がある | データ分析、デザイン、教育 | 特定のSNSの攻略(プラットフォーム依存) |
私自身の「大三角形」
正直に書きます。私の場合はこうです。
• 1辺目:IT企業でSE(15年)
• 2辺目:小説執筆・ブログ運営(10年以上、550記事)
• 3辺目:生成AI × コンテンツ制作(2023年〜)
3辺目はまだ発展途上です。しかし画像生成AIでブログのアイキャッチを自作し、記事の執筆にも生成AIを活用することで、「IT × 創作 × AI」という三角形が少しずつ形になってきています。
この三角形が完成したとき、「IT企業の経験を持ち」「創作ブログを550記事書き」「生成AIを創作に実装できる」人間——というのは、おそらくかなり希少な存在になれるのではないかと考えています。
完成形を焦る必要はありません。三角形は 1辺ずつ伸ばしていくもの です。
まとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 基本理論 | 100人に1人 × 3 = 100万人に1人 |
| 大三角形 | 3辺が遠いほど希少性が高い |
| 創作者の強み | 本業の経験がそのまま2辺目の「厚み」になる |
| AI時代の変化 | 100人に1人の到達速度が上がった。ただし差別化はリアルな経験にある |
| 3辺目の選び方 | 本業と創作の「間」を埋め、コンテンツとして蓄積でき、10年持つもの |
キャリアの掛け算は、「自分にはこれしかない」という思い込みを壊してくれる考え方です。小説を書いていることは、すでにあなたの三角形の1辺です。本業のもう1辺とあわせて、あとは3つ目をどこに伸ばすか。
どうですか、三角形の形が見えてきましたか? 完璧な三角形である必要はありません。いびつでも、小さくても、自分だけの形ができていけばいいのです。もし悩むことがあったら、このブログに戻ってきてください。同じように初心者だった私が、基礎から応用まで気づいたことを書き綴っています。
さあ、今日も物語を書きましょう。あなたの傑作を待っています。
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