芸術で飯を食べる方法|作家志望者が知るべき「お金」と「創作」の付き合い方
「なぜ芸術で飯は食えないのか」
この問いに、あなたならどう答えますか。
今これを読んでいるあなたは、小説家として生きていきたいけれど現実はそう上手くいかない……と感じているのではないでしょうか。あるいは、兼業で書き続ける自分に「これでいいのか」と迷っているかもしれません。年収のリアルや収益化の方法は別記事で解説しましたが、今回はもう少し根源的な話をします。
「そもそも、芸術とお金は両立するのか」 という問いです。
なぜ芸術で飯が食えないのか──構造的な理由
答えをシンプルに言えば、芸術は「自分がよしとする価値」を追求する行為であり、ビジネスは「他人がよしとする価値」を提供する行為だからです。
この2つをぴったり合わせることは可能ですが、非常に難しい。自分が書きたいものと、読者が読みたいものが一致すれば最高ですが、そう都合よくはいきません。
さらに、現代の小説ビジネスには「声の大きさ」という変数が加わっています。
SNSの発信力がなければ、どれほど優れた作品を書いても埋もれてしまう時代です。YouTubeやX(旧Twitter)での拡散力が作品の魅力に上乗せされることで、ビジネスとして成立する。「声」は「他人がよしとする価値」を拡声しているだけであり、純粋な作品の魅力評価とは異なります。偶然と必然が折り重なって作られた、ある種の幻想のような価値です。
でも、あなたは「声の大きさ」で勝負をしたかったでしょうか。おそらく多くの作家志望者は、そうではない。
では「芸術で飯を食べる」方法は、本当に存在しないのか。3つの考え方を紹介します。
考え方1:FIRE──早期リタイアで創作に全振りする
FIRE(Financial Independence, Retire Early)とは、経済的自立と早期退職を実現するライフスタイルです。
FIRE達成において最も大切なのは「貯蓄率」です。収入を最大化し、支出を最小化(最適化)すれば、年収に関わらず早期リタイアを目指せます。
一般的には「投資」による収入最大化が語られますが、作家の場合はKDPでのセルフ出版や、小説投稿サイトを利用した「趣味の副業」で収入を補いながら、生活費(支出)を最小化していく方法が現実的です。
たとえば生活費を月15万円に抑え、本業の手取り25万円からKDPや投稿サイトの収入3万円を加えた28万円のうち13万円を貯蓄・投資に回す。地味ですが、10年続ければ見える景色は変わります。
「60〜65歳までサラリーマンを続けたくない」「今は我慢してでも、早く小説一本で生きたい」——そんな人には、FIREの考え方がフィットするかもしれません。
ただし注意点もあります。FIREは「リタイア後の生活費を資産運用で賄う」設計であり、小説の収入は計算に入れないのが原則です。小説収入はあくまで「ボーナス」として位置づけ、なくても生活できる設計にしておく。この心理的余裕が、結果として良い作品を書く環境を作ります。
「書かなきゃ食えない」というプレッシャーが消えることで、逆説的に「書きたいものを書ける」状態になる。FIREの本質は「お金から自由になること」であり、それがそのまま「芸術の自由」につながるのです。
考え方2:商業ライターをしながら小説家を目指す
不本意かもしれませんが、まずは商業的に稼げる文章を書いて収入を得ながら、並行して自分の小説を書く方法です。
メリットは明確です。プロライターとしてお給料をもらいながら文章力を鍛えられる。さまざまなテーマの文章に取り組むことで引き出しが増え、いざ自分の小説を書くときに幅広いジャンルに対応できるようになります。
「商業ライターの過去が知れ渡ったら困る」という心配があるなら、ペンネームを分けてください。小説家としてのブランドに影響することはありません。
デメリットは、クライアントワークで疲弊し、自分の小説を書くエネルギーが残らないリスク。また、「売れるもの」を書き続ける中で、自分の書きたいものが見えなくなる危険性もあります。
しかし、「食うために書く」という経験は、作家としての覚悟を鍛えます。
そしてもう一つ重要な視点があります。商業ライターとして多くのジャンルの文章を書く経験は、読者目線を体に染み込ませる 最高の訓練になります。クライアントが「こう書いてほしい」と言うとき、それは「読者はこう読む」という市場のフィードバックそのものです。自分の小説だけを書いていたら得られない視点が、商業ライターの仕事には詰まっています。
考え方3:「お金と芸術」のあり方を根本から見直す
ここまでは「芸術でいかに収益を上げて生活するか」という観点で話を進めてきました。しかし、根本的な問いを投げかけます。
そもそも「お金」はそんなに必要でしょうか?
子どもの頃はたった500円でも、どう使おうかとワクワクしていました。でも年齢を重ねると1万円はあっという間、10万円でも足りない、20万円なければ……とキリがない。
しかし本当に「お金がないと芸術はできない」のでしょうか。
たとえば、小説を書くのに必要なものは何か。PCかスマホさえあれば、投稿サイトには無料で作品を公開できます。図書館に行けば資料は無限にある。カフェ代すら惜しければ、自室で書けばいい。小説は、クリエイティブ活動の中でも飛び抜けて「初期投資が少なく済む」ジャンルです。
そう考えると、「芸術で飯を食う」の定義自体を見直す余地があります。
「作家」とは何でしょうか。目の前にある生活と仕事をこなしつつ、雙間時間でやりたいことを真剣にやる。その結果、立派な「作家」になった人はいくらでもいます。カフカは保険局員、宮沢賢治は農学校の教師、太宰治は新聞社の記者でした。芸術一本で暮らしているから「作家」なわけではありません。
経済的には自立しつつ、自分のやりたいことを極める。どちらかに極端に偏らず生きるからこそ出る「味」がある。中途半端に感じるこの生活こそが、「作家」として必要なものかもしれません。
兼業作家だからこそ書ける物語があります。毎朝の通勤電車で見る光景、職場の人間関係、深夜に帰宅してからの30分の執筆時間——その全てが、あなたの作品にリアリティを与える素材です。専業作家が失いがちな「日常のリアル」を、兼業作家は毎日手に入れています。
3つの考え方の比較
| 考え方 | 向いている人 | リスク |
|---|---|---|
| FIRE | 長期計画が得意、我慢強い | リタイアまで時間がかかる |
| 商業ライター | 文章が書ければ何でもOK | 疲弊・書きたいものが見えなくなる |
| お金と芸術の見直し | 今の生活を大切にしたい | 「プロ」の定義が揺らぐ |
どれが正解かは、あなたの価値観次第です。大事なのは、3つの考え方を知った上で、自分に最適な組み合わせを選ぶこと。FIREを目指しながら商業ライターもやり、かつ「お金がなくても書ける環境」を確保しておく——という複合型が、実は最も堅実かもしれません。
まとめ:「好きなこと」と「稼ぐこと」の間で
人は誰かに求められることを素直にこなすことで、おのずと自分の形が決まっていくことがあります。実は、それが一番長続きすることかもしれません。
「芸術で飯を食べる」ことにこだわるあまり、書くこと自体が苦しくなっては本末転倒です。年収億超えの作家も存在しますが、そこだけを見て「自分もいつかは」と夢見るのも危険です。
地に足をつけ、自分なりの「作家」の定義を持ち、書き続ける。そのために必要な環境——それが「お金と芸術の付き合い方」の答えではないでしょうか。
小説家は稼げない職業だと言われます。しかし一方で「年収億超えの作家が普通にいる」という話もあります。その差は才能だけではなく、戦略と環境設計の差でもある。大切なのは、他人の年収と自分を比べることではなく、「自分が書き続けられる仕組み」を作ることです。
稼ぐだけが目的なら、電子書籍出版という選択肢もあります。やらずに後悔するよりは、やってみてダメかどうかを判断しても良い。前向きに、ポジティブに、好きなことを楽しみましょう。