リコリス・リコイルから学ぶ物語の書き方|創作者が盗むべき6つの技術

 2022年の夏、オリジナルアニメ「リコリス・リコイル」が放送されました。明るいトーンのガンアクションに、魅力的なダブルヒロイン、ディストピア的な世界設定。視聴者を夢中にさせた要素は数多くありますが、物語の作り手として注目すべきは、その裏にある創作技術の高さです。

 わたし自身、この作品に心からハマったひとりです。何度も観返すうちに気づいたのは、リコリス・リコイルには小説や物語を書く人間が学ぶべき技術がぎっしり詰まっているということでした。そこで、こう問いを立ててみました。「リコリコがあれほど心を掴んだのはなぜか。感覚ではなく技術として分解できるのか」。その仮説を検証するために、上品さ、世界観、二項対立、作家性、キャラクター設計と6つの切り口で記事を書きました。

 このページでは、リコリス・リコイルを創作者の視点で分析した全6本の記事をまとめています。アニメの感想としても楽しめますが、物語づくりのテクニック集としてお使いいただければ嬉しいです。

創作ノウハウ200超|小説の書き方ガイド

リコリス・リコイルとは

 「リコリス・リコイル」は、A-1 Pictures制作のオリジナルテレビアニメーション作品です。足立慎吾監督、アサウラ原案という二人の作家性が車の両輪となって生まれた作品で、2022年7月〜9月に放送されました。「治安世界一」を維持するために暗躍する秘密組織DAと、その構成員である少女たち「リコリス」を描く物語です。

 主人公は、天真爛漫で「やりたいこと最優先」を掲げる錦木千束と、仕事一筋のクール系美人・井ノ上たきな。対照的な二人が喫茶リコリコを拠点に働きながら裏稼業をこなすなかで、互いの価値観がぶつかり、変化していきます。冒頭で語られる「平和で安全、きれいな東京」というフレーズの裏に潜むディストピア的な世界観は、見ているうちにじわじわと効いてきます。明るいトーンで包まれているからこそ、その闇が際立つのです。

 放送中に社会現象となり、pixivの二次創作は半年で22,000件を突破。物語の完成度だけでなく、OP・EDとの連動、公式のSNS運用、花言葉や誕生日の仕掛けなど、作品の「枠外」まで含めた設計が話題を呼びました。2025年にはショートムービー6本が公開され、ファンは歓喜の嵐でした。

創作者が学ぶべき6つの技術

 以下の6本の記事は、それぞれ異なる仮説を立てて検証しています。「魅力の正体はバランス感覚なのか」「作家性の融合が機能したのか」「ダブル主人公の設計が成功したのか」——ひとつの答えに飛びつくのではなく、複数の角度から照らし合わせることで、この作品の創作技術が立体的に見えてきます。気になる技術から読んでも、上から順番に進めても構いません。

技術1:上品なバランス感覚と二項対立の仕掛け

 リコリス・リコイルが最高に面白い理由を4つの視点から言語化した記事です。とくに注目すべきは、作品全体を貫く「上品さ」と「二項対立」の設計です。

 千束とたきなの関係は、最後まで恋愛感情に堕ちることなく、プラトニックなバランスを保ちました。凡庸な作品ならば視聴者の願望に応えて一線を越えさせるところを、あえて踏みとどまる。その品格が、かえって作品の余韻と色気を生んでいます。創作において「やらない」という選択が、いかに作品の品格を高めるかを教えてくれます。

 さらに、太陽のように明るい千束と泥臭いたきな、DAの隠蔽と真島の暴露、朝の静けさで始まり夕暮れの静けさで終わる構成など、作品のあらゆるレベルに二項対立が仕掛けられています。対比の技術を自分の物語に取り入れるヒントが、この記事には詰まっています。

 → リコリス・リコイルが最高に面白い4つの理由|私はここが好き

技術2:作家性とは何か — 複数の才能を融合させる方法

 「リコリス・リコイルには作家性がない」という批判に対して、現代における作家性の正しい捉え方を論じた記事です。

 リコリス・リコイルの作家性は、監督ひとりのものではありません。アサウラさんのダークな世界観と、足立監督のポジティブなメッセージが融合した結果です。冒頭200字の世界設定には社会への鋭いメッセージが込められ、足立監督は「やりたいことを犠牲にせず、人生を豊かにしていく」という光のテーマを千束に託しました。同時に、「死を諦めていたからこそ無償の愛を配れた千束が、生き延びた先でどうなるのか」という闇も仕込んでいます。

 合作やチーム創作をする方はもちろん、自分の作品に異なるテイストを混ぜたいときの参考になる記事です。

 → リコリス・リコイルは作家性がない……わけない|現代における作家性とは

技術3:オリジナルアニメの総合力 — 物語・音楽・映像の融合

 8話時点でのファーストインプレッションを綴った記事ですが、オリジナルアニメーションならではの創作の強みについて触れています。原作のない完全オリジナル作品だからこそ、物語・音楽・映像のすべてを連動させた設計が可能になります。

 本編に合わせて歌詞が作り込まれたOP「ALIVE」とED「花の塔」。特にEDは、1話と6話で印象がまったく変わる設計になっており、物語と音楽の相乗効果を実感できます。小説は文字だけの媒体ですが、「物語が進むにつれて同じ要素の意味が変わる」という構造的な技は、そのまま応用できます。たとえば冒頭に置いた象徴的なフレーズが、クライマックスで全く違う意味を帯びる。リコリス・リコイルのEDが見せた手法です。

 → リコリス・リコイルが面白い!日本アニメーション界の物語づくりの才能が結集されてて素敵

技術4:ダブル主人公の設計 — バディものかスーパーヒーローものか

 リコリス・リコイルは本当に「バディもの」だったのかを検証した記事です。千束が戦闘力・カリスマ性をすべて持っているため、たきなとの関係は対等な相棒というよりスーパーヒーローと市民の構図に近いのではないか、という独自の分析をしています。

 この視点は、ダブル主人公の物語を書くときに重要です。二人の主人公に対等な能力を持たせるのか、片方を圧倒的に強くするのか。リコリス・リコイルは後者を選びながら、千束が持っていない「生きる理由」をたきなが与えるという構造で、物語上のバランスを保ちました。戦闘力では千束が圧倒的で、たきなは助けられる側になりがちです。しかし、千束の心を救ったのは間違いなくたきなでした。能力と精神性で分業させるダブル主人公の設計術が学べます。

 → 「リコリス・リコイル」はバディものだったのか?|令和のスーパーヒーロー「錦木千束」を語る

技術5:視聴者の代弁者としてのキャラクター設計

 井ノ上たきなという存在を深掘りした記事です。たきなは「ブラック企業で働きすぎて倫理観が欠如した仕事人間」であり、視聴者が感情移入しやすい代弁者として機能していました。

 仕事ができすぎるがゆえに孤独になった人間が、千束という破天荒な存在に出会って変わっていく。3話で千束に全肯定されたとき、視聴者もまた自分自身が肯定されたかのような感覚を得ました。この構造は、読者の感情移入を設計するときの模範例です。読者が「このキャラクターはわたしだ」と感じられるポジションのキャラクターを置くことで、物語への没入度は格段に上がります。たきなの設計から学べるのは、共感の導線をどう作るかということです。

 → 井ノ上たきなが面白すぎる|リコリス・リコイル流「シリアスな笑い」の例

技術6:世界観設定の方法とエピソードの取捨選択

 Newtype 2022年10月号に掲載された制作陣インタビューをもとに、創作に活かせるポイントを抽出した記事です。

 足立監督は「10代の女の子が危険な仕事をする理由」を考えることから世界観設定を始めました。「やりたいシーンを先に決め、そのシーンが成立する理由を考え、理由には実社会で知らないだけで有り得る嘘を使う」。このプロセスは、ファンタジーでもSFでも現代ものでも使える世界観構築の基本です。

 さらに、たきなのバックグラウンドを「スパッとカットした」という決断についても触れています。1クールという制約があったからこそ、余計な情報をそぎ落として千束の物語に集中できた。長さの制限がプラスに働くことを教えてくれるエピソードです。

 → 【神作品の裏側】Newtype 2022年10月号リコリス・リコイル制作陣インタビュー

リコリス・リコイルから創作者が持ち帰るべきもの

 ここまで6本の記事をざっと紹介しました。それぞれ違う角度からリコリス・リコイルを分析していますが、すべてに共通するのは「なぜこんなに心を掴まれるのか」を、感覚ではなく技術として分解しようとする姿勢です。

 6つの記事を通して見えてくるのは、リコリス・リコイルが単なる「面白いアニメ」ではなく、極めて高い設計精度で作られた物語だということです。ここまでは作品から読み取れる事実。ここからはわたしの解釈です。わたしが特に大事だと感じたポイントを、3つにまとめます。

 1. 「やらない」選択は「やる」より難しい

 千束とたきなの関係を恋愛に発展させない判断、たきなのバックグラウンドをカットする判断。削ることで作品の品格が上がるという事実は、小説を書くすべての人が意識すべきです。書けるけど書かない。描写できるけど描写しない。それが最高の推敲であり、作品の格を決める選択かもしれません。

 2. 対比は物語の骨格になる

 キャラクター同士の対比、1話と最終話の対比、光と闇のテーマの対比。リコリス・リコイルはあらゆるレベルで対比を徹底し、それが作品の構造的な美しさと強さを生んでいます。自分の作品を設計するとき、まず対比から考えてみるのは有効なアプローチです。

 3. 世界観は「なぜ?」から生まれる

 やりたいシーンを先に決め、それが成立する理由を後から掘り下げる。リコリス・リコイルの魅力的な世界観は、まさにこの手順から生まれました。設定を先に固めてからストーリーを作るのではなく、描きたい場面から逆算して世界を構築する。この方法は、ジャンルを問わず、すぐに自分の創作に取り入れられます。

 ただし、これらはあくまでわたしの解釈であり、制作陣が意図したかどうかは分かりません。分かることと分からないことを正直に分けるのが、分析記事の誠実さだと考えています。各記事ではさらに詳しく解説していますので、ぜひリンクからお読みください。

 どうですか、あなたの物語に取り入れたい技術は見つかりましたか。

 リコリス・リコイルを楽しんだ人も、まだ観ていない人も、この作品の創作技術から多くのヒントを持ち帰っていただけるはずです。好きな作品をただ「面白かった」で終わらせず、「なぜ面白いのか」を言語化すること。それ自体が、物語の書き手としてのトレーニングになりますね。

この記事が参考になったら、ブックマーク or シェアしていただけると励みになります。

腰ボロ作家について
創作の「設定資料」と「物語の書き方」を中心に、550記事以上を公開中。
サイトトップX(Twitter)

よく読まれている記事

小説の書き方本をもっと読むなら → Kindle Unlimited