【映像×創作】劇場版ハイキュー ゴミ捨て場の決戦に学ぶ「1試合映画」の構成術

2024年10月17日

今回は、2024年2月に公開された『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』を紹介します。こちらの映画は古舘春一による原作漫画(週刊少年ジャンプ、2012〜2020年連載、全45巻、累計発行部数7,000万部超)を映画化した作品です。監督・脚本は満仲勧、制作はProduction I.G。

国内興行収入116.4億円、全世界200億円超。2024年邦画2位の大ヒットとなりました。

しかし、この映画には不思議な点があります。上映時間はわずか85分。春高バレー3回戦「烏野高校 vs 音駒高校」のたった1試合しか描いていません。成長の過程も、回想も最小限。85分のほとんどが試合そのものです。

けれども、ほんっとうに心が震える最高な試合でした。クライマックスで、シンプルに高いトスで日向のために時間を稼ぎ、真骨頂を見せつけたシーンに鳥肌が立ち、一緒にやった! とガッツポーズしていた記憶があります。

この記事では、以下の問いを考えてみます。

85分・1試合限定という制約の中で、この映画はなぜ観客の感情をここまで動かせたのか。その構成技法は、Web小説のクライマックス設計に転用できるか。

仮説を4つ立てて、順番に検証していきましょう。


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仮説A:蓄積の回収——「結」だけで映画が成立する条件

スポーツ映画の定石は「挫折→特訓→試合→勝利」という成長物語を1本の中に収めることです。『ゴミ捨て場の決戦』はその定石を無視して、「結」だけで85分を構成しています。

ふつうに考えれば、これはリスクの高い選択でしょう。

しかし、日向翔陽と孤爪研磨にはTVシリーズ4期分の積み重ねがあります。何度も練習試合を重ね、「いつか公式戦で」と約束してきた因縁。映画は、その蓄積を「回収する場」として設計されていると考えます(筆者の解釈)。

この構成は『ドラゴンボール超 ブロリー』にも通じるところがあります。ただし、ハイキューの場合は「試合」というたった一つのイベントだけで通したところに覚悟を感じました。


仮説B:温度差のドラマ——「好き」の非対称が生む感動

この映画の軸は、日向翔陽と孤爪研磨の対比構造です。

日向翔陽孤爪研磨
バレーへの姿勢心の底から好き。全力で跳ぶ「たかがゲーム」と醒めている
戦い方身体能力と本能観察と頭脳
感情の表現全身で叫ぶ表情がほとんど変わらない

日向はバレーが好きです。全身全霊で好きです。研磨はそうではありません。ゲームは好きだけど、汗をかくのは苦手。チームメイトの熱量にも一歩引いている。

しかし、日向と対戦するうちに研磨の中で何かが変わっていきます。ゲーマーとして「この相手を攻略したい」という欲が、いつのまにかスポーツマンとしての「勝ちたい」に変わっていく。

この変化こそが映画最大の感動ポイントだと感じます(筆者の解釈)。

「好きの温度が違う二人を並べて、片方の温度が変わる瞬間を描く」——この構造は恋愛ものでは定番ですが、スポーツものでは特に効果的ではないでしょうか。あなたの物語で使うなら「主人公と、その活動に醒めた目を向けるキャラクター」を組み合わせてみてください。醒めた側の心が動く瞬間が、読者の心も動かします。


仮説C:シンプルな動きが文脈の力で輝く構成

この映画で最も印象に残るシーンのひとつが、日向のジャンプです。

特殊な技でも、必殺技でもありません。ただ高く跳ぶ。シンプルに高いジャンプで、相手のブロックを乗り越えていく。このジャンプに磨きをかけています。しかし、それを発揮するためには制約があり、真骨頂を見せられる時間と助走が必要です。相手チームはどうその制約を固定するかに頭を使い、味方チームはその制約をどう取り除くかに頭を使う・・・この駆け引きが面白い。

ファンタジーやバトルものでは、新しい必殺技や覚醒でクライマックスを描くのが王道です。しかし、「ゴミ捨て場の決戦」はもう一つの道を示しています。主人公が「ずっとやってきたこと(制約があるからこそ、最強な武器)」を、最高のタイミングで発揮させる構成です。

「ああ、あのとき練習していたアレだ」という快感。これは『THE FIRST SLAM DUNK』で宮城リョータの過去と現在のプレーが重なる構成にも通じるものがあると考えます。

ただし、この技法は「十分な積み重ね描写」が前提になります。連載の序盤から伏線を仕込んでおく必要があり、後付けでは機能しにくい点は注意が必要です。


仮説D:85分の制約と「繋ぐ」チーム構造

上映時間85分は、近年のアニメ映画としては短い部類に入ります。バレーボール1試合(3セット)の実時間とほぼ同じ長さです(ファクト)。余計な説明シーンがなく、セットが進むごとに画面の密度が上がっていく。観客はまるで体育館の客席にいるかのような没入感を覚えました(筆者の体感)。

もう一つ注目したいのは、バレーボールの「繋ぐ」構造です。一人でボールを持ち続けることができない競技。レシーブからトス、トスからスパイクへ、必ず誰かが「繋いで」次に託す。

烏野の西谷がレシーブで繋ぎ、影山がトスで繋ぎ、日向がスパイクで決める。この連鎖が物語の構成そのものになっています。

Web小説のクライマックスに応用するなら、以下の3点が実践的です。

  • 決戦は1話で完結させる(引き延ばさない)
  • 試合中に長い回想を挟まない。テンポを最優先する
  • 勝敗の決着は短く、その後の余韻に尺を割く

パーティものや群像劇では「Aの行動がBの成功条件を作り、Bの行動がCの見せ場を生む」という連鎖構造を意識してみてください。「誰かが脱落したとき、連鎖が途切れる」という緊張感も描けるようになります。


4つの仮説の比較

仮説強い点限界
A:蓄積の回収TV既視聴者へのカタルシスが絶大未視聴者にはハードルが高い
B:温度差のドラマ普遍的な感動構造。未視聴者にも伝わる映画単体での描写時間が限られる
C:シンプルな動きの力文脈の力を証明する好例。応用範囲が広い十分な伏線が前提。即効性は低い
D:制約と繋ぐ構造密度を高める設計。チーム戦に直結個人競技や一対一の物語には応用しにくい

どれか一つだけで116億円のヒットを説明することはできません。4つが複合的に作用した結果だと考えます(筆者の解釈)。

ただ、あなたの創作に「今日から使える」仮説を一つ選ぶなら、私は仮説Bの「温度差」を推します。蓄積がなくても、尺が長くても短くても、「好きの温度が違う二人が同じ場で全力を出す」構造は成り立つからです。スポーツものに限らず、仕事もの、ファンタジーの師弟関係にも転用できる普遍的な構成原理ではないでしょうか。


ファクトと解釈の整理

この記事で述べたことの信頼度を整理しておきます。

区分内容
ファクト公開日(2024年2月16日)、興行収入(国内116.4億円/全世界200億円超)、上映時間(85分)、原作(古舘春一/全45巻/累計7,000万部超)、監督・脚本(満仲勧)、制作(Production I.G)
筆者の解釈映画は蓄積の「回収の場」として設計されている / 研磨の温度変化が最大の感動ポイント / シンプルな動きが文脈の力で見せ場になる / 4仮説の中でBが最も汎用的
分からないことTV未視聴の観客にとって感動度がどの程度変わるか / 満仲勧監督が意図的に「結」だけの構成を選んだのか、原作の構造上そうなったのか

まとめ

『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』は、85分で1試合だけを描くという大胆な構成で、116.4億円のヒットを記録しました。

この映画が教えてくれるのは、「派手な展開がなくても、文脈さえあれば人は感動する」ということです。日向のジャンプも、研磨の心の変化も、烏野の連携も、物語の蓄積があってこそ輝いている。

あなたの物語でも、新しい必殺技を増やすより、積み重ねたものを最高のタイミングで回収する構成を試してみてください。「あのとき練習していたアレが、ここで活きた」と読者に思わせる瞬間を、クライマックスの中心に据える。派手さよりも、文脈。その力を、この映画は85分で証明しています。

『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』

ここまで読んで頂きありがとうございました。
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