履歴書に「小説を書いています」とは書けない——創作スキルの翻訳術

こんにちは。腰ボロSEです。

前回の記事では、「ラノベを書いている」と職場で言えるかどうかの話を書きました。今回はその延長で、もう少し実務的な話をします。創作で身につけたスキルを、履歴書や職務経歴書でどう表現するかという問題です。

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「翻訳」の必要性

履歴書の趣味欄に「小説執筆」と書くことはできます。でもそれだけでは、採用担当者には何も伝わりません。「アウトドアが趣味です」と同じ程度の情報量です。

本当に伝えたいのは、「小説を10年書き続けてきたことで身についた能力」のほうです。でもその能力を「プロット構成力」や「キャラクター造形の引き出し」と書いても、ビジネスの場では意味を持ちません。

ここで必要なのが「翻訳」です。創作の世界で使っている言葉を、ビジネスの世界の言葉に置き換える作業。以前、IT企業での経験が創作に還元されるという話を書きましたが、今回はその逆方向。創作の経験がビジネスに還元される経路を考えます。

翻訳テーブル——創作スキルをビジネス用語に

具体的に、どの創作スキルがどのビジネススキルに対応するか。私の実感をもとに整理します。

「長編を最後まで書き切る力」は、「長期プロジェクトの完遂力」です。10万字の長編を数ヶ月かけて書き上げる経験は、半年以上のプロジェクトを投げ出さずに完了させる能力を証明しています。途中でモチベーションが下がっても手を動かし続ける技術は、プロジェクトマネジメントの文脈で「self-directed(自律的)」と呼ばれるものです。

「推敲・校正の経験」は、「ドキュメントレビュー・品質管理スキル」です。第一稿を書いてから何度も読み返し、矛盾を潰し、読みやすさを改善する。この作業は、仕様書やテスト計画書のレビューとまったく同じ筋肉を使います。

「複数キャラクターの視点管理」は、「ステークホルダー管理・多角的な視点での分析力」です。登場人物それぞれが異なる動機と情報量を持っている中で、全体の整合性を取る。これはプロジェクトの関係者それぞれの立場を理解して調整するスキルと本質的に同じです。

「締め切りに合わせた逆算スケジューリング」は、そのまま「プロジェクトスケジュール管理」です。公募の締め切りから逆算して、いつまでに初稿を終わらせ、いつから校正に入るか。これを本業と並行してやっている兼業作家は、複数のタスクの優先順位を判断する能力が自然に鍛えられています。

「読者を飽きさせない文章構成」は、「プレゼンテーション・ビジネスライティングスキル」です。冒頭でフックを作り、中盤で論拠を並べ、終盤でまとめる。小説の章立てとプレゼンのスライド構成は、思っている以上に似ています。

翻訳するときの注意点

ここで大事なのは、「創作をやっているからこのスキルが身につきました」と直接言う必要はないということです。

職務経歴書に書くときは、あくまで「仕事での実績」として表現します。ただし、裏では創作で鍛えた能力がその実績を支えている。その自覚があるかないかで、自己PRの説得力が変わります。

例えば「前職では仕様書のテンプレートを改善し、レビュー工数を30%削減しました」と書く。面接で詳細を聞かれたら「文書の読みやすさを分析して、構造を見直しました」と答える。小説の推敲で培った「読み手の目線に立つ」感覚が、実はこの成果の裏にある。でもそこまで言わなくていい。成果が語ってくれます。

もうひとつの翻訳——面接での「自己紹介」

職務経歴書が「文字の翻訳」だとすれば、面接は「口頭の翻訳」です。

面接で「自分の強みをエピソードで語ってください」と言われたとき、創作経験はエピソードの宝庫です。ただし、そのまま使うのではなく、仕事の文脈に「翻訳」して語ります。

「連載を複数同時に進行させていました」は使えません。でも「複数の案件を並行して進める中で、優先順位を判断する力が身につきました」は使えます。後者のスキルの出自が小説の連載であることを、面接官は知る必要がありません。

あるいは「読者の反応を見て修正した経験」を、「クライアントからのフィードバックを反映して成果物を改善した経験」として語る。事実としても嘘ではありません。読者は最も正直なクライアントですから。

自分のスキルを過小評価しない

兼業作家の多くは、創作で身につけた能力を「趣味」の範囲に閉じ込めてしまいがちです。「仕事とは関係ない」「遊びで鍛えただけ」と自分で価値を下げてしまう。

でも考えてみてください。会社の研修で1日かけて学ぶ「ロジカルライティング講座」の内容は、長編を3本も書けば自然に身につくものです。チームビルディングの研修で教わる「異なる立場の人の視点を想像する」スキルは、群像劇を1本書けば嫌でも鍛えられます。

問題は「翻訳」がされていないだけです。スキル自体は確実にあなたの中にある。それを、相手に伝わる言葉に変換すること。履歴書という「作品」の読者は、採用担当者です。読者に合わせて書き方を変えるのは、小説家がいつもやっていることではないでしょうか。

ここまで読んで頂きありがとうございました。

さて、今日も物語を書きましょう。腰は壊しても、筆は折らない。

腰ボロSE

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腰ボロ作家について
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